メノイケウス

ギリシア神話の世界において、テーバイの都に関連する重要な人物として、メノイケウス（古希: Μενοικεύς）という名前が知られています。この名は「強さ」を意味するMenosと「家」を意味するOikosから派生しており、「家の強さ」を意味すると解釈されています。特筆すべきは、この名前を持つ人物が二人存在することです。

一人目のメノイケウスは、テーバイの支配者クレオーンの父にあたる人物です。彼の系譜は古く、テーバイの建国神話に登場する、地上から生まれた原住民スパルトイの一人、エキーオーンの子孫とされています。エキーオーンはテーバイ王ペンテウスの祖父にあたるため、このメノイケウスはペンテウスの孫ということになります。彼はクレオーンと、運命の王オイディプースの母であり妻となるイオカステーの父親でした。したがって、オイディプースにとっては、血縁的には祖父にあたり、また婚姻関係においては義父という複雑な間柄になります。ただし、この人物に関しては異説も存在し、クレオーンの祖父がメノイケウスであり、その子（クレオーンの父）はオスカロスという名だったとする伝承もあります。

二人目のメノイケウスは、前述のメノイケウスの息子であるクレオーンの子、すなわち一人目のメノイケウスの孫にあたります。彼は祖父と同じ名前を受け継ぎました。この二人目のメノイケウスは、テーバイの歴史における決定的な局面で重要な役割を果たしました。それは、エテオクレースがテーバイを統治していた時代に起こった、ポリュネイケースを指導者とするアルゴス勢の「七将によるテーバイ攻め」の最中です。

古代の著述家、特にヒュギーヌスやスタティウスが伝えるところによると、この戦いの行方を左右する預言がありました。盲目の預言者テイレシアースは、「原住民スパルトイの子孫の一人が、軍神アレースへの捧げ物として死を選べば、テーバイは敵の手から解放されるだろう」と予言したのです。メノイケウスは、この神託を聞き、自らの命を犠牲にすることを決意しました。彼はテーバイの城壁の上に登り、そこから身を投げて自害したと伝えられています。彼の自己犠牲の結果、予言は成就し、テーバイの都は攻め手であるアルゴス勢を退けることに成功したとされます。このテーバイ攻防戦の物語は、古代ギリシアの劇作家アイスキュロスによる悲劇『テーバイ攻めの七将』の題材ともなっています。

また、二世紀の地理学者であるパウサニアースは、テーバイを訪れた際にメノイケウスの墓とされる場所を目にして、その印象を記しています。パウサニアースによれば、メノイケウスはポリュネイケース率いる軍勢がアルゴスから攻めてきた際、デルポイの神託に従って自殺したと語られていました。その墓には、一本のザクロの木が茂っており、その熟した実を潰すと、まるで血のような赤い液体が詰まっているのが分かると記されています。パウサニアースが見た時点で、このザクロの木はまだ生きていると描写されており、メノイケウスの悲劇的な死を今に伝えるものとして、その存在は人々の記憶に深く刻まれていたようです。このように、メノイケウスという名前は、テーバイの系譜と歴史、そして自己犠牲による都市の救済という物語に結びついて語り継がれています。

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