メランコリア (クラナッハ、コルマール)

[ルーカス・クラナッハ]の『メランコリア』

[ルーカス・クラナッハ]が1532年に制作した油彩画『メランコリア』は、ドイツ・ルネサンス期の重要な作品です。フランスのコルマールにあるウンターリンデン美術館に所蔵されており、縦長の構図が特徴です。この作品は、アルブレヒト・デューラーの版画『メランコリア I』に触発された連作の一部であり、同年に制作されたコペンハーゲン国立美術館所蔵の『メランコリア』と多くの共通点を持っています。

四体液説とメランコリー

西洋では古くから、人間の性格は体内の体液のバランスによって決まるとする「四体液説」が信じられていました。この説では、血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の4つの体液が、それぞれ多血質、粘液質、胆汁質、憂鬱質という性格に対応するとされました。特に、「メランコリー」（憂鬱質）は黒胆汁が多い人の性質とされ、中世では不活発で怠惰な性格と見なされていましたが、ルネサンス期には思索や創造に適した性格として評価されるようになりました。

作品の解釈

本作に描かれているのは、木を削る有翼の女性像で、「メランコリー」の寓意像です。彼女の前には「創造」を暗示する道具や、「知恵」を意味する球と犬が置かれています。しかし、この作品は画家の友人であり宗教改革者マルティン・ルターの思想を色濃く反映しており、ルターは「メランコリー」を悪徳の温床と捉えていました。そのため、本作では「メランコリー」が否定的に描かれていると考えられます。ルターによれば、「メランコリー」は精神的な喜びと神の言葉によって克服されるべきものでした。

制作について

この絵画の大部分はルーカス・クラナッハ自身の手によるものとされていますが、一部には当時19歳であった長男ハンス・クラナッハの筆も入っていると考えられています。特に、筆致の柔らかい部分にはハンスの関与が指摘されています。これにより、父と息子、二人の画家の協力によってこの作品が完成したことが伺えます。

まとめ

ルーカス・クラナッハの『メランコリア』は、ルネサンス期の思想、特に「メランコリー」に対する解釈の変化を反映した作品です。デューラーの作品に触発されながらも、ルターの思想を取り入れ、憂鬱を否定的に描いている点が特徴的です。同年に制作されたコペンハーゲン国立美術館の作品と比較することで、この時期の美術と思想の関係性をより深く理解することができるでしょう。

参考文献

千足伸行監修『週刊世界の美術館 No.51 ルーヴル美術館IV』、講談社、2001年2月刊行
千足伸行監修『週刊世界の美術館 No.87 コペンハーゲン国立美術館』、講談社、2001年11月刊行

外部リンク

ウンターリンデン美術館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『メランコリア』 (フランス語、ドイツ語、英語)
コペンハーゲン国立美術館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『メランコリア』 (英語)

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