胆汁

胆汁（たんじゅう）

はじめに

胆汁は、私たちの体にとって非常に大切な消化液の一つです。主に肝臓で作られ、脂肪の消化吸収を助けるだけでなく、体内の老廃物を排泄する役割も担っています。少し黄色みがかった褐色で、アルカリ性の性質を持っています。

胆汁の生成と体の流れ

胆汁は、肝臓の細胞（肝細胞）によって常に生産されています。作られた胆汁は、総肝管という管を通って運ばれ、多くは胆のうという袋に一時的に蓄えられます。胆のうでは、胆汁の水分が吸収されて濃縮されます。

食事を摂ると、その刺激を受けて胆のうがキュッと縮まります。すると、濃縮された胆汁は総胆管を通って、小腸の一部である十二指腸へと送り出されます。総胆管の出口には「オッディ括約筋」という筋肉があり、これが緩むことで胆汁は十二指腸内に流れ込み、そこで初めて消化液としての働きを始めます。

胆汁の種類

胆汁は、その採取される場所や状態によって、便宜的に以下のように分けられることがあります。

A胆汁（胆管胆汁）: 十二指腸のファーター乳頭という出口から採取されるものです。
B胆汁（胆嚢胆汁）: 胆のうに蓄えられ、濃縮された状態のものです。
C胆汁（肝胆汁）: 肝臓の細胞で生産されたばかりの状態のものです。

胆汁の主な働き

胆汁は、健康な成人で1日に約600ミリリットル分泌されると言われています。胆汁には、主に「胆汁酸」と「胆汁色素」という二つの重要な成分が含まれており、それぞれが特有の働きをします。ただし、胆汁自体は消化酵素を含んでいません。

胆汁酸の働き

胆汁酸は、脂肪の消化吸収に欠かせない役割を果たします。

1. 脂肪の乳化: 食物に含まれる大きな脂肪の塊を、界面活性剤のように作用して、非常に細かい粒（乳化脂肪）に分解します。これにより、脂肪を分解する酵素であるリパーゼが脂肪と効率的に反応できるようになります。
2. 消化の促進: 乳化された脂肪にリパーゼが作用し、脂肪酸とグリセリンなどの分解産物が生じます。胆汁酸はこれらの分解産物をミセルという小さな集合体に取り込み、小腸の壁から吸収されやすい形に変えます。
3. 腸肝循環: 小腸に分泌された胆汁酸のほとんどは、小腸の下部で再び体内に吸収されます。吸収された胆汁酸は門脈という血管を通って肝臓に戻され、再び胆汁の成分として利用されます。この循環を「腸肝循環」と呼びます。

胆汁色素の働き

胆汁色素は、主に体の老廃物、特に古くなった赤血球の処理に関係しています。

ビリルビンの生成と排泄: 寿命を終えた赤血球が破壊されると、含まれていたヘモグロビンというタンパク質が分解されます。この分解産物の一部である「ヘム」は、肝臓の細胞で代謝されて「ビリルビン」という黄色の色素に変化します。ビリルビンはそのままでは水に溶けにくいため、肝臓で「グルクロン酸」という物質と結合（グルクロン酸抱合）することで水溶性が高められ、胆汁色素として胆汁とともに胆管を通って腸へと排泄されます。
* 尿や便の色との関連: 腸に排泄されたビリルビンの大部分は、腸内細菌の働きによって「ウロビリノーゲン」という物質に変化します。ウロビリノーゲンの一部は腸から再び吸収されて体内に入り、腎臓を通って尿と一緒に排泄されます。このウロビリノーゲンが体内で酸化されると「ウロビリン」という黄色の物質になり、これが尿が黄色い理由の一つです。この一連のサイクルは「腸肝ウロビリノーゲンサイクル」と呼ばれます。一方、腸内に残ったウロビリノーゲンは、さらに腸内細菌によって「ステルコビリノーゲン」という物質に還元されます。ステルコビリノーゲンが酸化されると「ステルコビリン」という茶色の物質になり、これが便が茶色い理由となります。ステルコビリンは便とともに体外に排泄されます。

胆汁と関連する病気：胆石症

胆汁はコレステロールを体外に排泄する経路の一つでもあります。肝臓で作られたコレステロールは、一部が胆汁酸に変換されるとともに、残りは胆汁酸などと複合体を形成して胆汁中に分散した状態で排泄されます。通常、胆汁中のコレステロールは胆汁酸などによって安定に保たれています。

しかし、胆のうで胆汁が濃縮される過程で、何らかの原因によってコレステロールが胆汁酸から遊離し、結晶として析出・成長することがあります。このコレステロールの結晶が集まって固まったものが「コレステロール胆石」です。胆のうや胆管にこれができると、炎症や痛みを引き起こす胆石症の原因となります。胆石の原因としてはコレステロールが最も多く、レシチンやビリルビンなどによる結石は比較的まれです。

胆汁は、脂肪の消化吸収、老廃物の排泄、そしてコレステロール代謝など、私たちの健康維持に欠かせない多様な働きをしています。

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