モアナサウルス

モアナサウルス：ニュージーランドの海を支配した巨大海生爬虫類

モアナサウルス（学名：Moanasaurus）は、後期白亜紀（約7000万年前）に現在のニュージーランド北島に生息していたモササウルス科の属です。属名は、マオリ語で「海」を意味する「moana」と、ギリシャ語で「トカゲ」を意味する「saurus」を組み合わせたもので、「海トカゲ」を意味します。種小名は、化石が発見されたマオリ語のマンガホウアンガ川に由来します。モササウルス科の中でも最大級の属の一つであり、頭骨長は78センチメートル、全長は推定12メートルに達すると考えられています。

発見と記載

モアナサウルスの化石は、カンパニアン期からマーストリヒチアン期にあたる硬結性砂岩層の巨礫の中から発見されました。タイプ標本（S34-S37）は、関節していない頭骨、歯、椎骨、肋骨の断片、ヒレ足の骨などを含んでいます。これらの化石は良好な保存状態であり、特に神経棘の歪みはほとんど見られませんでした。ただし、一部の骨には海底に埋没する前に生じた摩耗や侵食が見られます。

頭骨の特徴

頭骨長は780ミリメートルと推定され、上顎骨には15本の歯が存在します。前頭骨は幅広く、頭蓋骨は後眼窩前頭および頭頂領域で最も幅広くなっています。基後頭部は、前耳骨、後耳外後頭骨、上側頭骨、上後頭骨、鱗状骨が強固に縫合しています。環椎の椎体は軸椎に癒合し、機能的な椎弓突起と椎弓窩は椎骨の背側領域に見られます。

上顎骨と歯

上顎骨の左側のみが発見されており、13の断片に破損した状態でした。縦に割れて失われた部位もありますが、歯を持つ部分は完全に保存されています。上顎骨は前方が丸く、第12歯の根元で最も太く、後方に向かって細くなります。また、頬側縁の10ミリメートル上に8つの孔が存在します。上顎骨には11本の歯と4つの歯槽が確認されており、前方の歯は細長く、中央で最大の大きさとなり、顎の奥に向かうにつれて小さくなります。第1、4、8歯の位置には生え変わりの歯が存在し、第6歯には歯を収容するための浅い窪みが見られます。第3、10、13、14歯の位置には歯槽だけがあり、この個体が死んだ後に歯が抜け落ちたと考えられています。

その他の頭骨

前頭骨は広い三角形の板状の骨で、大脳との接触のため長さ18ミリメートルに及ぶ3本の溝があり、後端は鋭いV字型をしています。後眼窩前頭骨は右側のみが保存されており、頬骨へ突出する部位が確認されます。頭頂骨には頭頂孔と頭頂翼が完全に保存されており、頭頂骨の左右両側には浅い隆起があります。頭頂孔は直径1.2センチメートルで、後方へ突き出た突起は長さ15センチメートルと見積もられました。基後頭部は前耳骨、後耳外後頭骨、上側頭骨、上後頭骨、鱗状骨で構成されており、基蝶形骨の一部も含まれます。上側頭骨と鱗状骨は右側の外側表面で癒合しています。方形骨は頸部で最も残りやすい骨とも言われ、今後の化石発見が期待されます。

椎骨

発見された椎骨は24個で、頸椎、脊椎、尾椎が良好な状態で保存されています。頸椎は環椎と軸椎を含む6つが発見され、環椎の椎体は軸椎に癒合しています。軸椎には間椎体と破損した神経棘が確認され、他の4つの頸椎は頑丈なつくりをしています。脊椎は11個発見され、椎体の関節面が次第に丸みを帯び、椎体自体も長さを増す変化を示します。尾椎は8個発見され、臀部、中間部、末端部由来のものが含まれます。臀部の尾椎は頑丈な構造で、中間部の尾椎は丸みを帯びて、神経棘は後側へ傾斜します。末端の尾椎は丸く、横突起はなく、腹側弓はわずかに重厚さを増します。

四肢

左上腕骨、尺骨と思われる骨、3個の手根骨、2個の中手骨、第一指骨、腸骨が発見されています。上腕骨はモササウルス科の特徴を持ち、手根骨と指骨はプラテカルプスに類似する特徴を持っています。上腕骨の頭は関節窩に突出部を持たず、中央はくびれ、遠位が拡大します。尺骨は砂時計型をしており、手根骨は厚みがあり、中手骨と指骨は細長い砂時計型をしています。腸骨は小型でクラブ状の形状をしています。

分類

原記載論文では、モアナサウルスはモササウルス科のどの分類群とも独立した特徴を示すとされました。Wright (1989) はモアナサウルスをモササウルスの種としましたが、Wiffen (1990) は頸椎の関節面の形状や椎弓突起・椎弓窩の位置から、モアナサウルスをモササウルスとは別の属としました。モアナサウルスは、その独特な特徴から、モササウルス科の中でも特異な進化を遂げたグループであることが示唆されています。

モアナサウルスは、ニュージーランドの海を支配していた巨大な海生爬虫類であり、その化石は白亜紀の生態系を理解する上で重要な手がかりとなっています。

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