モチノキ

モチノキ：鳥もちの原料となる常緑広葉樹

モチノキ（学名: Ilex integra）は、モチノキ科モチノキ属に分類される常緑広葉樹です。別名ホンモチ、モチとも呼ばれ、その名の通り、樹皮から鳥もちが取れることが特徴です。日本国内では、東北地方中部以南の本州、四国、九州、南西諸島に広く分布し、国外では朝鮮半島南部、台湾、中国中南部にも見られます。暖地を好むため、沿岸部の山地や暖地の山林に自生しており、海風にも強い性質を持っています。

モチノキの生態

モチノキは、高さ数メートルから十数メートルに成長する中高木です。雌雄異株であり、株単位で性転換する珍しい性質を持っています。樹皮は灰色で滑らかで、一年枝は緑色をしています。葉は互生しますが、枝先では輪生状にみえることもあります。葉身は長さ4～7cm、幅2～3cmほどの楕円形または倒卵状楕円形で、革質で濃緑色をしており、水分を多く含んでいます。

開花期は春（4月頃）で、黄緑色の小花を咲かせます。花は直径約8mmで、葉の付け根に雄花は数個ずつ、雌花は1～2個ずつ付きます。雄花には4本の雄蕊、雌花には緑色の大きな円柱形の子房と退化した雄蕊があります。

晩秋（11月頃）には、直径10～15mmほどの球形の赤い果実が熟します。この実は鳥が好んで食べ、種子の散布に役立っています。果実の先端には、浅く裂けた花柱が黒く残ります。冬になると、熟した実は黒く変色します。

モチノキと天敵：モチノキタネオナガコバチ

モチノキには、モチノキタネオナガコバチという天敵が存在します。このコバチは、夏にモチノキの実の中に産卵し、幼虫と成虫の状態で越冬します。驚くべきことに、このコバチは実の色を操作する能力を持っており、産卵された実は本来の赤色ではなく緑色のまま残ります。これは、鳥に食べられてしまうことを避けるためと考えられています。

しかし、モチノキは花粉を受粉しなくても種子を形成し、果実まで成熟できる能力を持っています。調査によると、未受精の種子は全体の3割にも及ぶことが分かっています。コバチは受精した種子にしか産卵しないため、未受精の種子に産卵しようとすると無駄な労力となります。この未受精の果実は発芽しないため、モチノキにとって繁殖には役立ちませんが、コバチの繁殖を妨げる効果があると考えられています。

モチノキの栽培

モチノキは、日なたから半日陰の場所を好み、適度な湿り気のある土壌でよく育ちます。成長は比較的遅く、根を深く張る性質があります。植栽の適期は、2月下旬～4月、6月下旬～7月中旬、または4月～7月上旬、9月中旬～10月中旬とされています。剪定は3月中旬～5月中旬に行うのが適期です。施肥は1～2月に行いましょう。

ただし、茂りすぎると風通しが悪くなり、カイガラムシの寄生やすす病の発生リスクが高まります。そのため、定期的な枝配りは重要です。モチノキは刈り込みに強いので、様々な樹形に仕立てることができます。

モチノキと人間との関わり

鳥もち

モチノキの樹皮からは、古くから鳥もちが作られてきました。これは、モチノキの名前の由来にもなっています。春から夏にかけて採取した樹皮を、秋まで流水に浸しておくと、木質成分が腐敗し、水に不溶性の鳥もち成分だけが残ります。これを細かく砕いて洗い、不純物を取り除くと鳥もちが得られます。モチノキ由来の鳥もちの色は白いため、「シロモチ」または「ホンモチ」と呼ばれ、ヤマグルマから作られる赤い鳥もち（アカモチ）と区別されています。

材としての利用

モチノキの材は堅く緻密であるため、細工物などに利用されてきました。

庭木や公園樹としての利用

モチノキは刈り込みに強く、潮風や大気汚染にも耐えるため、庭木や公園樹として広く利用されています。古くから日本の庭木として親しまれ、玉仕立てや列植など、様々な樹形に仕立てることができます。また、防火樹としての機能も知られています。

その他

一部の神社では、御神木としてナギの代用木として植えられている例もあります。また、岐阜県岐南町のシンボルツリーにも指定されています。

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