モデラトス

ガデイラのモデラトス：断片から浮かび上がる古代の知性

1世紀のローマ帝国、現在のスペイン・カディスにあたるガデイラで活躍したモデラトスは、古代世界の知的な魅力を体現する謎多き哲学者です。新ピタゴラス派に分類されながらも、中期プラトン主義の影響も色濃く受け継いでおり、その思想は複数の文献からの断片的な言及を通して、現代にまでその痕跡を残しています。

彼の著作は残念ながら現存しておらず、直接的な思想に触れることはできません。しかし、プルタルコス『食卓歓談集』をはじめとした様々な文献が、モデラトスを新ピタゴラス派の一員として言及していることから、その存在と影響力の大きさが伺えます。

特に注目すべきは、ポルピュリオス『ピタゴラス伝』における記述です。同書はモデラトスがピタゴラス派の数の研究をまとめた11巻にも及ぶ大著を著したと伝えています。この記述から、彼が当時盛んに行われていたピタゴラス主義における数秘術や数理哲学に深く関与していたことが推測できます。古代ギリシアにおいて、数は単なる量ではなく、宇宙の秩序や調和を理解するための鍵として捉えられていました。モデラトスの研究は、この思想をより体系的に構築する上で重要な役割を果たしたと考えられます。

さらに、シンプリキオスの『アリストテレス自然学注解』は、モデラトスが新プラトン主義者の「一者」概念に似た思想を展開していた可能性を示唆しています。しかし、その思想的基盤として、プラトンの『パルメニデス』ではなく、ピタゴラス派の思想体系を参照していたという点に特筆すべきものがあります。この解釈については現代の哲学史家の間でも議論が分かれており、モデラトスの哲学におけるプラトン主義とピタゴラス主義の微妙なバランス、そして独自の解釈が、現在でも研究者を魅了し続けていると言えるでしょう。

モデラトスの思想は、現存する断片的な情報からしか窺い知ることができません。しかし、彼の存在とその学説が、プルタルコスやポルピュリオス、シンプリキオスといった著名な古代の思想家によって記録されている事実自体が、彼の思想が当時の知的環境において重要な位置を占めていたことを示しています。彼の著作が失われたことはまことに残念ではありますが、残された断片から、古代における哲学思想の複雑さと多様性、そしてその発展における様々な影響関係を考察する上で、モデラトスは重要な手がかりを与えてくれていると言えるでしょう。今後の研究によって、モデラトスの思想がより明確に解明されることを期待したいところです。

参考文献
チェントローネ, ブルーノ 著、斎藤憲 訳『ピュタゴラス派 その生と哲学』岩波書店、2000年
ファーガソン, キティ 著、柴田裕之 訳『ピュタゴラスの音楽』白水社、2011年
左近司祥子『謎の哲学者 ピュタゴラス』講談社〈講談社選書メチエ〉、2003年

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