モバイルWiMAX

モバイルWiMAX：高速モバイル通信の世界

モバイルWiMAX（Mobile Worldwide Interoperability for Microwave Access）は、移動体通信に対応した無線ネットワークシステムの規格です。2005年にIEEE 802.16e-2005として策定された第3.9世代移動通信システムであり、その後、2011年には第4世代移動通信システムであるWiMAX 2（IEEE 802.16m）が標準化されました。

モバイルWiMAXは、固定用途のWiMAX（IEEE 802.16-2004）をベースに開発されており、多くの技術的共通点を持っています。本稿では、両規格の差異とモバイルWiMAX独自の機能を中心に解説します。

モバイルWiMAXの主要な特徴

1. 高速通信: モバイルWiMAXは、最大75Mbpsの伝送速度を実現します。これは、2009年当時のHSDPA（最大28Mbps）を大きく上回る速度で、実用サービスでは40Mbps以上の速度が提供されました。

2. 広いセル範囲: モバイルWiMAXの通信距離は1～3kmとされ、1つの基地局がカバーするエリア（セル）は、都市部で約750m程度とされています。これは、固定用途のWiMAX（2～10km）と比較して狭くなりますが、十分なモバイル通信を可能とする範囲です。

3. 高速移動対応: IEEE 802.16e規格では、時速120kmでのセクター間ハンドオーバーを可能としており、実証実験では時速200kmでも問題なく動作することが確認されています。

4. 常時接続: LAN接続と同様に常時接続を前提としており、ダイヤルアップ接続のような接続の手間がありません。このため、シンクライアントPCなどとの組み合わせで、場所を選ばずに作業を行うことが可能です。

5. 世界標準規格への対応: 世界標準規格であることで、携帯電話のように機種変更を余儀なくされることなく、サービスプロバイダの変更が容易になります。また、国際ローミングにも対応し、海外でも利用できる可能性があります。

モバイルWiMAXの用途

モバイルWiMAXは、多様な用途に利用できます。

モバイル機器: ノートPC、スマートフォン、タブレットPC、携帯情報[[端末]]など
データ通信: 電子メール、ブラウジング、音楽・動画配信など
ビジネス用途: シンクライアントPC、モバイルオフィスなど
車載機器: カーナビゲーションシステムなど
デジタル家電: 家庭用ゲーム機、デジタルサイネージなど
産業用途: 医療機器、テレメトリング、自動検針、監視システム、環境計測など

モバイルWiMAXの技術

モバイルWiMAXの多くは固定WiMAXと共通していますが、モバイル環境に適した独自の技術も採用されています。

1. TDD方式の採用: モバイルWiMAXは、上りと下りを同一周波数で時分割するTDD方式を採用しています。これは、上りと下りのデータ量の比率に応じて柔軟に周波数帯域を割り当てられるため、周波数利用効率を高めることができます。

2. QoSの提供: WiMAXでは、アプリケーションの種類に応じて5つのQoS（Quality of Service）クラスを提供します。これにより、音声通話（VoIP）、ビデオストリーミング、データ通信など、様々なアプリケーションに対して最適な通信品質を確保できます。

3. マルチホップリレー: 複数の基地局を中継することで、通信エリアを拡大するマルチホップリレー機能がサポートされています。中継局は透過型と非透過型の2種類のモードを備えており、通信状況に応じて最適なモードが選択されます。

4. ハンドオーバー技術: 基地局間のシームレスな接続を確保するために、4種類のハンドオーバー方式が用意されています。ハードハンドオーバーとソフトハンドオーバーがあり、通信途絶を最小限に抑えるよう工夫されています。

5. 省電力技術: モバイル機器での利用を想定し、アイドルモードとスリープモードによる省電力化がサポートされています。

6. 誤り訂正技術: HARQ（Hybrid Automatic Repeat reQuest）を用いることで、伝送路の誤りを効果的に訂正し、通信の信頼性を向上させています。

7. アンテナ技術: 通信速度と品質向上のため、MIMO、AAS（適応アレイアンテナシステム）、STC（時空間符号化）といったアンテナ技術が採用されています。

WiMAX 2およびWiMAX 2.1

モバイルWiMAXの後継規格であるWiMAX 2（IEEE 802.16m）は、さらに高速なデータ伝送を実現し、マルチホップリレー機能の強化、フェムトセルのサポートなどが行われました。WiMAX 2.1は、TD-LTEとの互換性を高めた規格です。UQコミュニケーションズでは、WiMAX 2.1技術を利用した「WiMAX 2+」サービスを提供しており、最大440Mbps以上の高速通信を実現しています。

実用例

モバイルWiMAXは、日本、米国、韓国など、世界各国で商用サービスが展開されています。日本では、UQコミュニケーションズが主要なサービスプロバイダとなっています。米国では、スプリント・ネクステルが当初展開していましたが、後にLTEへの移行を進めています。

まとめ

モバイルWiMAXは、高速通信、広いカバーエリア、常時接続といった特徴を持つ、次世代モバイル通信技術です。多様な用途への適用が可能であり、今後の発展が期待されます。ただし、後継規格であるWiMAX 2やLTEの普及により、市場でのシェアは減少傾向にあります。

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