フェムトセル

フェムトセルとは

フェムトセルとは、半径数メートルから数十メートル程度の非常に狭い範囲をカバーする、小型の無線基地局のことです。従来の携帯電話基地局（マクロセル）が数百メートルから十数キロ[[メートル]]の範囲をカバーするのに対し、フェムトセルはより小さなエリアをピンポイントでカバーします。この特徴から、マクロセルでは電波が届きにくい屋内や地下、あるいは電波干渉が起こりやすい場所での通信品質を改善するために利用されています。

フェムトセルの概要

従来の携帯電話ネットワークでは、マクロセル基地局が広範囲をカバーしていましたが、電波の届きにくい場所や、複数のマクロセルが隣接するエリアの境界付近では、通信品質が劣化しやすいという課題がありました。そのため、携帯電話事業者は、マクロセルよりも小さいエリアをカバーする小型基地局（ナノセル、ピコセル）を設置して対応しましたが、それでも十分な対策ができない場所が残っていました。フェムトセルは、これらの残された場所での通信品質改善に役立ちます。

フェムトセルという名称は、10のマイナス15乗を表す接頭語「フェムト」に由来しており、ナノセル（10のマイナス9乗）やピコセル（10のマイナス12乗）よりもさらに小さい範囲をカバーすることを示しています。

フェムトセルは、屋内で利用可能な通信エリアを拡大し、データ容量のニーズに対応することができます。また、携帯電話事業者にとっては、新たなサービスの提供やコスト削減につながる可能性があります。

さらに、フェムトセルは、固定通信と移動体通信を融合する技術（FMC：Fixed Mobile Convergence）を実現する手段としても注目されています。FMCの多くは、Wi-Fiアクセスポイントと連携する新しいモバイルデバイスを必要としますが、フェムトセルの場合は、既存のモバイルデバイスでサービスを受けることができます。ただし、フェムトセルを設置する必要はあります。

フェムトセルのアーキテクチャ

2008年5月、3GPP（第三世代パートナーシッププロジェクト）は、フェムトセルネットワークのアーキテクチャとして、Home Node B（HNB）アーキテクチャを採用しました。これは、Collapsed StackとUMA/GANという2つの手法を組み合わせたものです。

現在では、3GPPでは3GフェムトセルをHNB、LTEフェムトセルをHome eNode B（HeNB）と呼んでいます。

フェムトセルと回線

フェムトセルとピコセルの大きな違いは、使用する回線です。ピコセルは、キャリアのコアネットワークと専用回線で直接接続しますが、フェムトセルは一般的なインターネットサービスプロバイダーのブロードバンド回線を経由します。このアーキテクチャの欠点は、モバイル通信のパケットが、一般のインターネットアクセスのパケットと同一の物理回線を共有してしまう点です。そのため、フェムトセルでは、IPsecなどの強固なセキュリティ技術を用いて、通信の安全性を確保する必要があります。

フェムトセルの課題

フェムトセルの導入には、以下のような課題も存在します。

電波干渉: フェムトセルを設置すると、既存のマクロセルとの間で電波干渉が発生する可能性があります。特に、同一周波数帯を使用する場合、干渉が深刻化する恐れがあります。
周波数帯: フェムトセルには、専用の周波数帯が割り当てられていないため、既存の周波数帯の中で、干渉を避けるための慎重な周波数計画が必要です。
ハンドオーバー: マクロセルとフェムトセルの間で携帯電話端末が切り替わる際（ハンドオーバー）に、規格上の制限があります。例えば、隣接するセルサイトの数には制限があり、頻繁なハンドオーバーによってネットワーク負荷が増加する可能性があります。
電力制御: CDMAシステムでは、マクロセルとフェムトセルが同じ周波数帯を使用する場合、電力制御アルゴリズムが干渉を引き起こす可能性があります。
アクセス制御: 近隣の携帯機器が、別のフェムトセルに接続するのを防ぐための対策が必要です。
合法的傍受: フェムトセルは、他の公共通信システムと同様に、合法的傍受の基準を満たす必要があります。
設備の位置: 通信事業者は、各フェムトセルの位置を正確に把握し、緊急通報（E911）に対応できる必要があります。
ネットワーク統合: 従来の携帯電話ネットワークは、大規模なフェムトセル展開に対応できるように設計されていません。そのため、多数のフェムトセルを効率的に管理するための新しいアーキテクチャが必要です。
緊急通報: フェムトセルは、VoIP電話と同様に、緊急通報サービスを提供する義務があります。
サービス品質: 家庭用ブロードバンド回線を利用する場合、他のサービスと帯域幅を共有するため、サービス品質（QoS）が低下する可能性があります。
スペクトルの正確さ: フェムトセルは、FCC/RAのスペクトルマスク要求を満たすために、高精度なRF信号を生成する必要があります。この精度を維持するには、高価な発振器が必要となるため、コストやメンテナンスの面で課題があります。

フェムトセルの展開

フェムトセルは、世界中で導入が進んでいます。特に米国では、スプリントが「Sprint AIRAVE」という家庭用フェムトセルを導入し、注目を集めました。その他、O2、ソフトバンク、テリア・ソネラ、ボーダフォンなどの通信事業者も、実地試験を行っています。

日本におけるフェムトセル

日本では、2008年9月18日に電波法施行規則が改正され、「フェムトセル基地局」が規定されました。その後、改正を重ね、現在では携帯電話端末と同様に、利用者は免許や資格を意識することなくフェムトセルを利用できます。ただし、設置場所は、他の無線局の運用を阻害しない場所に制限されています。

日本の携帯電話事業者の動向

NTTドコモ: 2009年11月18日より「マイエリアサービス」を開始しましたが、2012年9月30日に終了しました。その後、圏外対策としてのフェムトセル提供は継続しています。2012年12月には、世界初となるLTE/3G両方式に対応した「Xiフェムトセル」を提供開始しました。
ソフトバンク: 2010年5月10日より「ホームアンテナFT」の名称でサービスを開始しました。ブロードバンド回線がない利用者には、無料でADSL回線を提供しています。2017年より4G LTEに対応した「ホームアンテナFT（4G LTE）」を提供開始しました。
KDDI (au): 2010年10月より「auフェムトセルサービス」を開始しました。当初は「auひかり」回線が必要でしたが、2014年12月12日よりau 4G LTEおよびau VoLTEに対応した「auフェムトセル (VoLTE)」を提供開始しました。
* 楽天モバイル: 2020年4月8日、無線LANルーター機能付きの小型LTEフェムトセル「Rakuten Casa」を発売しました。楽天ひかり契約者向けに提供しています。

まとめ

フェムトセルは、携帯電話ネットワークのカバー範囲を拡大し、通信品質を向上させるための重要な技術です。今後、さらに普及が進むことが期待されます。

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