ハンドオーバー

ハンドオーバー（Handover）とは

ハンドオーバー（Hand Over, H/O）とは、携帯電話やPHSなどの移動体端末が、通信中に基地局を切り替える動作のことです。ハンドオフ(Hand-off)とも呼ばれます。工学分野では、長音を省略して「ハンドオーバ」と表記されることもあります。

セルラー方式を採用する移動体通信では、端末がセル（基地局の電波が届く範囲）の境界を移動したり、電波が弱くなったりすると、通信が途絶えてしまいます。そのため、電波状況が悪化する前に、より電波状態の良い別の基地局に通信を切り替える必要があります。この切り替えがハンドオーバーです。

携帯電話のハンドオーバー

携帯電話では、基地局間のハンドオーバーだけでなく、同一基地局内のセクタ間のハンドオーバーも行われます。

アナログ方式携帯電話

初期のアナログ方式携帯電話では、周波数を切り替える際に通話が一時的に途切れていました。また、ハンドオーバー先の電波状況によって音質が変化するという問題もありました。初期の船舶電話ではハンドオーバー機能が実装されていませんでした。

第二世代携帯電話（PDC、GSM）

PDC方式では、パイロットキャリアを利用したハードハンドオーバー（HHO: Hard Hand-over）が用いられました。これは、接続を一度切断してから、新しい基地局に接続する方法です。

CDMA方式携帯電話（cdmaOne、W-CDMAなどの第三世代携帯電話）

CDMA方式では、複数の基地局と同時に通信するソフトハンドオーバー（SHO: Soft Hand-over）が利用されます。これにより、理論上はハンドオーバーによる瞬断なしに基地局を切り替えることが可能です。ただし、周波数切り替えを伴うハードハンドオーバー（HHO: Hard Hand-over）の場合は、瞬断が発生します。セクタ間のハンドオーバーは、ソフターハンドオフと呼ばれます。

PHSのハンドオーバー

PHSは、携帯電話に比べて基地局のセル半径が小さいため、同じ移動速度でも頻繁にハンドオーバーが発生します。初期のPHSでは、ハンドオーバー処理に数秒かかるため、処理中に通話が途切れるという問題がありました。この問題が、PHSが「切れやすい」という印象を与えた要因の一つです。

この問題を解決するため、各社は受信回路を複数内蔵し、通話中にバックグラウンドで別の基地局を探して、より電波状態の良い基地局に即座に切り替える「高速ハンドオーバー」を開発しました。また、ダイバーシティアンテナの採用も、通信の安定に貢献しました。

各社が採用した高速ハンドオーバーの技術名称は以下の通りです。

アステル: 「スーパースムーズ」。無線機を2台搭載した「スーパースムーズEX（エクストラ）」も存在します。切替時間はノーマル版で1/4～1/20秒、EX版で最大1/50秒とされています。ただし、ソフトウェアとの相性や基地局の同期のズレなど、完全に解消されない問題も残っていたようです。
ドコモPHS: 「クイックリンク」。切替時間は約1/20秒です。3事業者の中で最後に導入されました。64K対応の基地局間のハンドオーバーに効果が限定され、32K対応の基地局間では高速ハンドオーバーは利用できませんでした。
ウィルコム: 「ツインウェーブ」。「H"」以降の機種で採用されました。切替時間は最大で約1/20秒で、音声端末の種類によって性能にばらつきがありましたが、おおむね良好でした。同社の基地局のセル設計も安定性に貢献しています。また、「feelH"」ではダイバーシティアンテナを標準搭載し、通信の安定性を高めました。メーカーによっては「アンテナサーチ」「しっかリンク」と呼ぶ場合もあります。

ハンドオーバーの問題点

ハンドオーバーは、端末の移動速度や方向を事前に予測できないため、通信状態が悪化してから処理が開始される後追い型の処理になります。そのため、急激に電波状況が悪化した場合、処理が間に合わず失敗する可能性があります。

関連項目

ダイバーシティ (無線通信技術)
適応変調

外部リンク

ツインウェーブの仕組み

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