モンドの磔刑

モンドの磔刑

『モンドの磔刑』（イタリア語: La Crocifissione Mond、英語: The Mond Crucifixion）は、盛期ルネサンスの巨匠ラファエロ・サンツィオによって1502年から1503年にかけて制作された祭壇画です。正式には『キリストの磔刑と聖母マリア、聖人、天使』（英: The Crucified Christ with the Virgin Mary, Saints and Angels）と呼ばれ、イタリアのチッタ・ディ・カステッロにあるサン・ドメニコ教会のガヴァーリ家埋葬礼拝堂のために作られました。この作品はラファエロの祭壇画としては2作目であり、彼が単独で制作した祭壇画としては初めてのものであります。また、作品名は最終的に所有者となったルードウィッヒ・モンドに由来しています。

制作経緯

『モンドの磔刑』は、ウルビーノの近くに位置するチッタ・ディ・カステッロのサン・ドメニコ教会の主祭壇の右側にあるガヴァーリ家埋葬礼拝堂の祭壇画として依頼されました。依頼主は羊毛商人かつ銀行家のドメニコ・ディ・トンマーゾ・ガヴァーリです。ラファエロは以前にこの地区のサンタゴスティーノ教会でバロンチ家の埋葬礼拝堂の祭壇画も手がけており、その者同士の親しい関係から今回の依頼を受けることとなったと考えられています。現在も祭壇自体は砂岩で作られ、依頼された当時の姿を維持しています。

作品の内容

絵画は、チッタ・ディ・カステッロの美しい田園風景を背景に、十字架が立つ構図になっています。キリストは十字架に架けられ、上部には「I.N.R.I.」という碑文が掲げられています。彼は荊の冠をかぶり、深紅の腰布を身に着け、両手足から流れる血が描写されています。特に右脇腹の槍傷からは血が噴き出すように描かれ、緊迫感を生んでいます。

十字架の両側には細かい銀色の雲が浮かび、そこにいる2人の天使がキリストの血を受け止めようとしているのが印象的です。また、十字架の足元には聖ヒエロニムスとマグダラのマリアがひざまずき、崇敬の念を込めてキリストを見つめています。さらに画面の下方両端には聖母マリアと福音伝道者聖ヨハネが立つ姿が描かれ、鑑賞者を見つめる悲しげな表情が印象的です。ラファエロはこの作品に自らのサインを画面の下部に入れており、ウルビーノのラファエロによるものであることを示しています。

全体的にこの作品は、ペルジーノの影響を色濃く受けており、特に彼の磔刑図に見られる構図や表現技法が反映されています。ラファエロは衣服の陰影を強調するためにハッチング技法を多用し、また手や指を使って絵画の表面を整えるこだわりを見せています。

プレデッラ

『モンドの磔刑』の祭壇画には、メインパネルに加えて3点のプレデッラが存在します。これらのうち2点は現存しており、その内容は聖ヒエロニムスに関するものです。プレデッラは、聖ヒエロニムスの生涯から選ばれたテーマを扱っています。

来歴

この祭壇画は、最初にサン・ドメニコ教会に300年以上にわたり保管されていましたが、1808年にはナポレオンの叔父にあたる枢機卿ジョゼフ・フェッシュに売却されました。その後も様々な所有者の手を経て、最終的にはルードウィッヒ・モンドの所に移り、彼の死後1924年にロンドンのナショナル・ギャラリーに寄贈されました。

『モンドの磔刑』は、ラファエロの初期における重要な作品の一つであり、彼の技術の進化と芸術的な感性が凝縮された素晴らしい祭壇画です。

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