モン・タイ軍

モン・タイ軍（Mong Tai Army, MTA）

組織概要:
モン・タイ軍（ビルマ語: မိုင်းတိုင်းတပ်မတော်、英語: Mong Tai Army、略称: MTA）は、ミャンマー連邦共和国に存在した、主にシャン族で構成される武装組織です。
1985年、麻薬王として悪名高かったクン・サによって組織されました。
その全盛期には最大2万人規模の兵力を擁し、当時のミャンマー国内における主要な非政府武装勢力の一つとされていました。
組織の主要な拠点は、タイとの国境地帯、特にタイのメーホンソーン県に隣接するシャン州ランコー県のホーモンに置かれていました。

設立経緯と活動実態:
MTAは1985年、クン・サが率いていたシャン連合軍（SUA）と、モーヘンが指揮するタイ革命評議会が合併して誕生しました。このタイ革命評議会は、かつて存在したシャン連合革命軍（SURA）から分かれた一派とされています。
組織は公式にはシャン州の独立達成を究極的な目標として掲げていました。しかし、その活動実態に対しては、州内の特定の軍閥の私兵として振る舞っているとの批判がつきまといました。
さらに、MTAは「黄金の三角地帯」として知られるメコン川上流域の国境地帯における麻薬取引に深く関与していると広く指摘され、その活動の主要な資金源がアヘン生産と取引によるものであると認識されていました。この地域は年間数百万ドルに及ぶアヘンの生産地として悪名高い場所です。

全盛期の兵力と対立:
1990年代には、MTAはその兵力を約2万人にまで拡大させ、ミャンマー国軍（タッマドー）に対抗する一大勢力となりました。
しかし、1993年から1995年にかけてミャンマー国軍との激しい戦闘を経験する中で、組織内部に亀裂が生じ始めます。これは、シャン州の独立を純粋に志向する民族主義者グループと、アヘン取引による経済的利益を重視するグループ（特に華人系勢力）の間での意見の相違が顕著になったことによるものです。
また、MTAは同時期、ミャンマー北部を拠点とするもう一つの有力な武装組織であるワ州連合軍（UWSA）とも激しい抗争を展開しました。この戦闘は1996年まで続き、UWSAがタイ国境近くのケントゥン地域北部と南部の二つの領域を獲得する結果となりました。これらの勢力間の衝突は、結果的にミャンマー国軍にとって有利な状況をもたらすことになります。

組織の分裂と解体:
1995年7月7日、MTAは深刻な内部分裂に直面します。組織内のカンヨート大佐とDae Wain大佐は、彼らの指揮下にあった約8,000人の兵士と共にMTAを離脱。シャン州中部のシポー近郊に新たな拠点を設置し、シャン州民族軍（SSNA）と改称して別の組織として活動を開始しました。この分裂はMTAの弱体化を決定的なものとしました。
そして1996年、残存したモン・タイ軍本体は、指導者クン・サの決定により解体に至り、ミャンマー国軍に降伏しました。
しかし、MTAの全ての構成員が降伏を受け入れたわけではありませんでした。ヨートスックを始めとする一部の幹部や兵士は、シャン州の独立という当初の目標を諦めず、抵抗を続けることを選択します。彼らは新たにシャン州軍 (南)（Shan State Army - South, SSA-South）として知られる組織を樹立し、その後もミャンマー国軍や他の武装勢力との対立を継続することになりました。

歴史的意義:
* モン・タイ軍は、その規模と活動範囲、そして麻薬取引との深い関わりから、1980年代から1990年代にかけてのミャンマー国内、特にシャン州における複雑な情勢を象徴する存在でした。公式目標としての民族独立運動と、資金源としての非合法活動という二面性は、この地域の多くの武装勢力に共通する課題を浮き彫りにしました。MTAの興隆、分裂、そして終焉の歴史は、ミャンマー多民族国家における武装紛争の複雑さと、その後の勢力図の変化に大きな影響を与えたと言えます。

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