モーケン族

モーケン族

モーケン族は、東南アジアのアンダマン海、特にタイ王国やミャンマーの沿岸およびメルギー諸島近海を伝統的な生活の場とする海洋民族です。彼らは自らを「モーケン」と称し、ミャンマー語では「サロン族」と呼ばれます。また、しばしば「海のジプシー」という別名で知られていますが、この呼称はモーケン族だけでなく、東南アジアの複数の水上生活者や移動型民族を指す総称としても用いられるため、注意が必要です。言語は、オーストロネシア語族に属する独自のモーケン語に加え、居住地域に応じてタイ語やミャンマー語も使用します。

名前の由来

「モーケン」という自称の背後には、祖先にまつわる物語が伝えられています。この物語によれば、彼らの祖先である女王は、水と米、そして火をもたらした船乗りを夫として迎え入れました。しかし、夫である船乗りは、女王の妹と密通するという裏切り行為に及びました。この不貞が露見したことで、彼らは陸地から追放されました。この出来事、特に女王の妹の「沈没」が、「モーケン」という名前の由来になったとされています。

居住と生活様式

モーケン族の伝統的な生活は、一年間のほとんどを海上で過ごすことに特徴があります。彼らは「カバン」と呼ばれる独自の家船を住居とし、この船上で生活のすべてを営んできました。かつては、外部の未知なる人々との接触を恐れる傾向がありましたが、時代の変化と共に外部との関わりも増えています。

しかし、近年、特にミャンマー政府の政策により、一部のモーケン族は海岸沿いの土地に定住することを余儀なくされています。東京新聞の報道によれば、現在では多くのモーケン族が海岸線に高床式の住居を建てて生活しており、さらに子供たちは内陸部の学校に通うようになっているとのことです。これは、政府が彼らの文化を既存の社会に同化させようとする試みの一環とも見られますが、その成果は限定的であると報告されています。1990年には、ミャンマーの軍事政権が一部のコミュニティを強制的に陸地へ移住させたという事例もありました。

彼らの生計は海に大きく依存していますが、陸上での狩猟技術にも予想外の巧みさを見せると言われています。また、完全に伝統的な自給自足ではなく、燻製にしたナマコなどを販売して現金収入を得、それで船の燃料を購入するなど、資本主義経済の一端と関わりを持つ生活を送っています。一方で、こうした資本主義社会から訪れる大規模な商業漁船団による乱獲は、彼らの伝統的な漁場から魚介類を根こそぎ奪い去り、生活を厳しくする一因となっています。

海洋との深い関係と試練

モーケン族は海との繋がりが非常に深く、その環境の変化に対する鋭敏な感覚を持っています。このため、2004年12月に発生したスマトラ島沖地震に伴う大規模な津波に際しては、一部の地域のモーケン族は、海の異変から津波の到来を予感し、危険を回避する行動をとることができたとされています。しかし、タイのパンガー県タプタワンなど沿岸部に定住していた村々では、住宅や家船が津波によって深刻な被害を受け、大きな試練に直面しました。この出来事は、彼らの生活様式が直面する脆弱性と、伝統的な知識の重要性を同時に浮き彫りにしました。

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