モージ (魔法使い)

モージ（Maugris）

モージは、中世フランスのシャルルマーニュ伝説（「フランスの話材」）を基にした武勲詩やロマンス、あるいはルネサンス期の著名な叙事詩に登場する重要な人物です。フランス語形ではモージ（Maugris）、あるいはモージス（Maugis）と呼ばれますが、日本では特にイタリア語形であるマラジジ（Malagigi）の名でもよく知られています。

騎士と魔法使いの二重性

モージの特異な点は、彼が勇敢な騎士であると同時に、強力な魔法使いであることです。当時の物語において、主要な英雄が同時に魔法の使い手である例は珍しく、この二重性が彼のキャラクターを魅力的なものにしています。彼は、シャルルマーニュ（カール大帝）の宮廷に仕える忠臣として描かれる一方で、その魔法の力をもって様々な冒険に関与し、物語の展開に不可欠な役割を果たします。

血縁とルノー・ド・モントーバンとの関係

モージの血縁は、伝説世界の中で重要な一族につながっています。彼の父はボーブ・デグルモン（Beuve d'Aigremont）、兄弟にはヴィヴィアン・ド・モンブラン（Vivien de Monbranc）がいます。そして、最も密接な関係で知られるのは、従兄弟であるルノー・ド・モントーバン（Renaut de Montauban）です。イタリア語ではリナルド（Rinaldo）として広く知られるルノーは、シャルルマーニュ伝説における最も著名な英雄の一人であり、多くの物語においてモージは彼の右腕、あるいは守護者のように行動を共にします。モージは妖精オリアンド（Oriande）に育てられたとされ、この出自が彼の強大な魔法の力の源泉と考えられています。彼はその魔法を用いて、ルノーに魔法の馬バヤール（Bayard）や強力な剣といった特別なアイテムをもたらし、ルノーの危機を救ったり、冒険を助けたりすることがしばしば描かれます。

物語世界における登場と発展

モージとルノーの物語が文献に現れるのは、比較的早い時期です。彼らが最初に登場するとされるのは、12世紀後半に成立した古フランス語の武勲詩『エイモン公の4人の息子』（Quatre Fils Aymon）です。この作品は、エイモン公の息子たち、特にルノーとシャルルマーニュの間の抗争を描いたものであり、モージも重要な助言者・協力者として登場します。

13世紀に入ると、彼らの活躍、特にモージ自身に焦点を当てた物語が増加しました。これらの作品は、オリジナルである『エイモン公の4人の息子』と共に「ルノー・ド・モントーバンの物語群」（Geste de Renaut de Montauban）として知られるようになりました。この物語群には、以下のような作品が含まれます。

『モージの若いころ』（Maugis d'Aigremont）：モージの幼少期や魔法を習得する過程に焦点を当てた物語。
『モージの死』（Mort de Maugis）：モージの晩年や最期を描いたとされる作品。
『ヴィヴィアン・ド・モンブラン』（Vivien de Monbranc）：モージの兄弟であるヴィヴィアンを主人公とする物語で、モージも登場します。
『ボーブ・デグルモン』（Beuve d'Aigremont）：モージの父ボーブの物語。モージの出自が語られます。

なお、『ボーブ・デグレモン』には複数のバージョンが存在し、一部の異伝ではモージがジラール・ド・ルシヨン（Girart de Roussillon）やドーン・ド・ナントウィユ（Doon de Nantueil）といった他の著名な英雄たちと兄弟であると設定されている場合もあり、伝説の流布における多様性を示しています。

ルネサンス期への影響

中世の武勲詩で人気を博したモージ（マラジジ）は、その後のヨーロッパ文学、特にルネサンス期イタリアで書かれた著名な叙事詩においても重要な役割を果たし続けます。ルドヴィーコ・アリオストの代表作『狂えるオルランド』（Orlando Furioso）や、ルイージ・プルチの『モルガンテ』（Morgante）といった作品において、マラジジは主人公オルランドやその仲間たちと共に、魔法使いとして、あるいは知恵袋として登場し、物語の展開に深く関与します。彼の魔法の力は、これらの作品でも敵対者との戦いや予言、策略において重要な要素となります。

モージは、騎士道物語の世界における「賢者」や「魔法使い」の典型的なキャラクターとして、またルノー・ド・モントーバンの物語群における不可欠な要素として、中世からルネサンス期にかけてのヨーロッパ文学において長く語り継がれた存在と言えるでしょう。勇敢さと神秘的な力を兼ね備えた彼のキャラクターは、多くの読者や聴衆を魅了しました。

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