モーズグズ

モーズグズ：ヘルへの道を司る巨人女性

北欧神話において、モーズグズ（モドグン、モッドグンとも呼ばれる）は、死者の魂が冥府ヘルへと至るギャッラルブルーの橋の番人として知られる巨人女性です。その存在は、『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』に登場し、死者の冥府への旅に深く関わっていることがわかります。

古ノルド語ではMóðguðrと表記され、様々な綴り方がありますが、いずれも彼女を指す名称です。ギャッラルブルーという橋は、現世と冥府ヘルを繋ぐ重要な場所であり、モーズグズはその橋の通行を管理する、いわば関所の管理者のような役割を担っていました。

生命を失い、ヘルへと向かう魂は、モーズグズの前に姿を現します。そして、自分の名前とヘルへ向かう理由を告げることで、モーズグズは彼らにギョッル川（ギャッラルブルーが架かる川）を渡る許可を与えました。これは、死者の魂が安らかに冥府へと旅立つための儀式的な通過儀礼と解釈することもできます。単なる番人というだけでなく、死者の魂を導く役割も担っていたと言えるでしょう。

興味深いのは、モーズグズが単に死者たちの通行を許可するだけでなく、彼らの事情を理解し、判断していたという点です。彼女は生者と死者の区別を認識しており、死者でない者には通行を許しません。

物語の中で、モーズグズは神々と関わる場面も描かれています。例えば、神々の死を嘆いたフレイヤの弟、バルドルの冥府からの救出を企てたヘルモーズは、モーズグズのいるギャッラルブルーの橋を渡ろうとします。ヘルモーズは生者であるにも関わらず、モーズグズは彼の容貌から死者の仲間ではないと見抜きました。しかし、ヘルモーズの強い意志とバルドル救出という目的を理解したモーズグズは、彼にヘルへの道を教え、旅を助けたのです。

このエピソードは、モーズグズが単なる橋の番人ではなく、死と生、神と巨人、そして様々な世界の境界に立つ存在として、物語に重要な役割を担っていることを示しています。彼女は厳格ながらも、事情に応じて柔軟な対応を行う、複雑な性格を持つ巨人女性として描かれています。

モーズグズの役割を理解することは、北欧神話の死生観や、世界観を理解する上で非常に重要です。彼女は、単なる架空の存在ではなく、北欧の人々の死生観や、冥府への旅路に対する考え方を反映した象徴的な存在と言えるでしょう。彼女の存在を通して、北欧の人々が死をどのように捉え、死後の世界をどのように想像していたのかを知る手がかりが得られます。今後の研究によって、モーズグズに関する更なる理解が深まることが期待されます。

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