モーリス・エマニュエル

フランスの音楽学者であり作曲家であったモーリス・エマニュエル（Maurice Emmanuel）は、1862年5月2日にこの世に生を受け、1938年12月14日に永眠しました。本名をマリ・フランソワ・モーリス・エマニュエルといい、その生涯は音楽への深い探求と創作、そして教育活動に捧げられました。

生涯と教育

モーリス・エマニュエルは、フランス北東部のバール＝シュル＝オーブに生まれ、少年期をボーヌで過ごしました。1869年、一家と共にディジョンへ移住し、そこで聖歌隊の一員として音楽に触れる機会を得ます。その後、音楽の道を志し、パリ音楽院に進学。ここでは高名な作曲家レオ・ドリーブ（Léo Delibes）のもとで作曲を学びました。音楽院では同窓のクロード・ドビュッシー（Claude Debussy）と出会い、この二人の間に育まれた友情はエマニュエルが世を去るまで続きました。

学術的探求と作曲思想

学生時代から、エマニュエルは一般的な音楽教育の範疇を超える幅広い分野に強い関心を示しました。特に彼が魅了されたのは、故郷ブルゴーニュ地方の民俗音楽、遠い東洋・オリエントの音楽、そして多様な異国の旋法（モード）でした。彼はこれらの非西洋的な音階やリズムの可能性を探求し、自身の創作活動にも積極的に取り入れようと試みました。しかし、彼の作品における独特な旋法の活用は、伝統的な規範を重んじる師ドリーブの理解を得られませんでした。この音楽的な見解の相違は深刻な対立へと発展し、ついにはドリーブによって、作曲家にとって栄誉あるローマ大賞への応募を阻止されるという苦い経験をすることになります。

この挫折は、エマニュエルを学術研究の道へとさらに傾倒させる契機となりました。彼は古代の音楽、特に古代ギリシャ音楽の探求に力を注ぎ、1895年にはこの分野に関する記念碑的な論文を執筆・発表しました。その学術的な功績が高く評価され、1909年には母校であるパリ音楽院に作曲科教授として迎えられることになります。教育者としては、後に20世紀を代表する作曲家となるオリヴィエ・メシアン（Olivier Messiaen）をはじめ、多くの後進を指導しました。また、1904年から1907年にかけては、当時オルガニストとして著名であったシャルル・トゥルヌミール（Charles Tournemire）が勤めていたサン＝クロティルド教会で、聖歌隊の指揮者を務めるなど、実践的な音楽活動にも従事しました。

作品の特徴と主要作品

学術的な活動と並行して、エマニュエルは作曲も継続しました。彼の創作は、彼自身の学術的探求、特に旋法への深い洞察に根差しています。彼の作品には、古来の音階や異国の旋法が大胆かつ独創的に用いられており、当時のフランス音楽界においては異彩を放っていました。彼の創作の中でも特に注目されるのは、ピアノのための《6つのソナチネ》です。この連作ソナチネは、彼の幅広い関心を如実に示しており、多様な音楽的要素が融合されています。例えば、第1番には故郷ブルゴーニュの民俗音楽が取り入れられ、牧歌的な雰囲気を醸し出しています。第2番では鳥の声が巧みに模倣され、自然への眼差しが感じられます。第3番の終楽章にも再びブルゴーニュ民謡が引用されており、土地への愛着が示唆されます。さらに特筆すべきは第4番で、「インドの様々な旋法によって（en divers modes Hindous）」という副題が付されており、その異国趣味と旋法への飽くなき探求心が表れています。

その他の主要な作品としては、以下のようなものが挙げられます。

歌劇
縛められたプロメテウス（Prométhée enchaîné）
サラミーヌ（Salamine）
管弦楽曲
交響曲 第1番
交響曲 第2番
室内楽曲
チェロ・ソナタ
弦楽四重奏曲
ピアノ曲
* 6つのソナチネ

モーリス・エマニュエルは、単なる作曲家や音楽学者にとどまらず、古代から伝わる音楽の知恵や世界各地の音文化に光を当て、それを自身の創作と教育に結びつけた先駆者の一人でした。彼の探求心と独創性は、後の世代の音楽家たちにも少なからぬ影響を与えたと言えるでしょう。

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