モーリス・セーヴ

モーリス・セーヴ（Maurice Scève, 1500年頃 - 1564年頃）は、フランス・ルネサンス期を代表する詩人の一人であり、リヨン派の中心人物として知られています。彼は、クレマン・マロやピエール・ド・ロンサールといった同時代の著名な詩人たちと並び、当時のフランス詩壇において重要な役割を果たしました。

セーヴはリヨンで生まれ、アヴィニョンで法律を学んだ後、故郷のリヨンに戻り詩人として活動を始めました。彼は、プラトンやペトラルカの思想に影響を受け、精神的な愛の概念を深く探求しました。特に、プラトンの翻訳者であり注釈者であったマルシリオ・フィチーノの思想に多くを負い、独自の愛の理論を精緻化していきました。

彼の主な著作には、連作ソネット集『デリー』（1544年）、哀歌『アリオン』（1536年）、牧歌「La Saulsaye」（1547年）、そして、人間の没落をテーマにした百科全書的な詩『小宇宙』（1562年）があります。これらの作品を通じて、セーヴは人間の精神世界や愛の多面性を表現しました。

セーヴは、単なる詩人としてだけでなく、音楽家としての側面も持ち合わせていたと考えられています。彼は、言葉の音楽的な響きに非常に注意を払い、作品においてその効果を最大限に引き出そうとしました。この点と彼の博識さから、彼はマロ派とプレイヤード派の接点に位置づけられ、両派の詩人たちに影響を与えました。

特に『デリー』は、実在または架空の女性に捧げられた一連の詩の形式を確立しました。この形式は、後にロンサールが『カッサンドラへのオード』で、ジョアシャン・デュ・ベレーが『オリーブ』でそれぞれ踏襲しました。このことから、セーヴが後世の詩人たちに与えた影響の大きさを窺い知ることができます。

セーヴの正確な没年は不明ですが、1560年頃に亡くなったと考えられています。彼の作品は、ルネサンス期のフランス文学において、重要な位置を占めており、今日でも多くの研究者や読者に愛されています。

リヨン派

リヨン派は、フランス・ルネサンス期にリヨンを中心に活動した詩人グループを指します。このグループは、セーヴを指導的な立場とし、多くの詩人たち、特に女性詩人たちを含んでいました。リヨン派の存在については、その実態が議論の対象となることもありますが、セーヴを中心とする詩人たちが集い、独自の詩風を形成していたことは事実です。

リヨン派には、セーヴの友人であるクロード・ド・タイユモンをはじめ、ペルネット・デュ・ギエ、クレマンス・ド・ブールジュ、セーヴの姉妹であるクローディーヌ・セーヴとシビル・セーヴ、そしてルイーズ・ラベといった才能ある女性詩人たちがいました。

リヨン派は、セーヴの精神的な愛の探求や、言葉の音楽的な響きに対する意識を受け継ぎ、独自の詩風を確立しました。

日本語訳と関連書籍

『デリ :至高の徳の対象』加藤美雄訳. 青山社, 1990.8
加藤美雄『モーリス・セーヴ作品研究』昭森社, 1964

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