ヤオ族

ヤオ族：多様な文化と歴史を持つ山岳民族

ヤオ族は、中国湖南省から雲南省、そして東南アジア北部の山岳地帯に広く分布する少数民族です。古くは「徭族」「傜族」「猺族」など様々な名称で呼ばれてきましたが、現在は「瑶族」に統一されています。その分布域の広さだけでなく、言語や文化の多様性もヤオ族の大きな特徴です。

言語と民族自称

ヤオ族の中心的な言語はミエン語（別名：ユーミエン語、キン・ムン語）ですが、地域や集団によって異なる言語を使用しています。中国では「瑶族」、タイやラオスでは「ヤオ」、ベトナムでは「ザオ」と呼ばれ、民族自称も「ミエン」「キン・ムン」など様々です。ヤオ族の言語は大きく4系統に分類され、中国のヤオ族はミエン語、プヌ語、ラッキャ語、漢語を話す集団から構成され、人口の半数以上がミエン語話者です。東南アジアのヤオ族は、日常会話にミエン語を使用する一方、儀礼の際にはミエン歌謡語や雲南漢語、広東語などを用いるなど、多様な言語運用がなされています。

歴史と伝承

ヤオ族の起源については、中国では古代湖南省の山地住民である武陵蛮・五渓蛮の子孫とする説が有力視されています。言語の多様性から、南嶺山脈を南下する過程で他の民族を吸収しながら現在の分布に至ったと推測されています。シェ族との系統的な近縁性も指摘されています。

ヤオ族の伝承には、龍犬の槃瓠が敵の王を討ち、漢族の王女と夫婦となり、その子孫がヤオ族の十二姓の始祖となったとする「槃瓠神話」があります。この神話は『後漢書南蛮伝』にも類似の記述があり、『過山榜』『評皇券牒』といった山地民の権利文書にも伝えられています。さらに、タイのヤオ族には、南京から海路で移住した際に盤皇という神に救われたという「飄遙過海」神話が広く知られています。広西省東部の板ヤオ族の伝承には、漢人と共に海を渡る際に嵐に遭い、盤王の加護によって難を逃れたという記述があり、漢民族との歴史的な関わりを示唆しています。また、タイのヤオ族からは、「太古、ミエン族と日本族は中国に共に住んでおり、ミエンは南へ、日本族は東へ移動した」という興味深い伝承も伝えられています。

姓と亜姓

過山ヤオ族では、男女ともに姓を持ち、結婚後も女性は生家の姓を保持します。しかし、漢民族とは異なり、姓と亜姓の制度が存在します。例えば盤姓は、「盤白」と「盤赤」の二つの亜姓に分かれ、祖先への供養方法などに違いが見られます。同姓同士であれば婚姻が可能ですが、亜姓同士の婚姻は原則として認められていません。「十二姓」という表現は、象徴的なものであり、実際の姓の数は十二を大きく超えます。

1930年代の調査では、盤、黄、李など十八種の姓が確認されていますが、評皇券牒の記録からは、さらに沈、包、胡、雷の四種が加わり、合計二十二種に上ります。

文化と社会

ヤオ族は伝統的に焼畑農業を営み、地力の衰えとともに移動を繰り返してきましたが、近年の焼畑制限や定住化政策によって、村落を形成するようになっています。父系社会を基本とし、漢字による姓名を使用します。タイのヤオ族では、一夫多妻制が認められ、他民族との養子縁組も盛んです。宗教は、アニミズムと道教が融合した独自の信仰体系を持ち、人類学者のジャック・ルモワンはこれを「ヤオ道教」と呼びました。

中国におけるヤオ族自治地域

中国においては、湖南省、広東省、広西チワン族自治区、雲南省などにヤオ族自治県や自治郷が設置されています。これらの地域では、ヤオ族独自の文化が保持・発展されています。

遺伝子

ヤオ族の遺伝子分析では、Y染色体ハプログループO系統が83.6％と非常に高い頻度で確認されています。これは、ヤオ族が他の民族を吸収しながら現在の分布に至ったという歴史的背景を遺伝子レベルでも裏付けるものです。

ヤオ族は、その多様な言語、豊かな歴史と伝承、独特の文化、そして複雑な社会構造を持つ、魅力的で奥深い民族です。今後も、その文化の継承と発展に注目していく必要があるでしょう。

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