ヤクート人

ヤクート人：シベリアのテュルク系民族

ヤクート人（サハ人）は、主にロシア連邦サハ共和国に居住するテュルク系民族です。サハ共和国の人口約98万人のうち、約39%を占め、主要な民族集団を形成しています。モンゴロイド系の民族的特徴を持ち、サハ語を母語とします。サハ語はテュルク諸語に属し、ロシア連邦内では約45万6千人の話者がいます（2002年国勢調査）。サハ共和国以外にも、アムール州、マガダン州、サハリンなど周辺地域にも居住しています。ソ連時代には移住政策の影響で人口割合が減少しましたが、ソ連崩壊後はわずかながら増加傾向にあります。話者人口の多さから、サハ語の絶滅の危険性は比較的低いと評価されています。

起源と遺伝

ヤクート人の起源については、オリホン島やバイカル湖周辺からレナ川流域へと移動し、エヴェンキやエヴェンなどのツングース系民族と混交しながら、現在の居住地へと定着したという説が有力です。遺伝学的には、ウラル系民族に多いY染色体ハプログループNを高い頻度で持ち、古代ノースユーラシア人からの遺伝的流動も確認されています。言語的には、元々はウラル語族を使用していたと考えられていますが、後にテュルク系言語に転換したと考えられています。この複雑な歴史は、ヤクート人の多様な文化とアイデンティティを形作っています。

生活様式と社会構造

ヤクート人は、大きく北部と南部のグループに分けられます。北部ヤクートは伝統的にトナカイ飼育を基盤とした半遊牧生活を送る狩猟採集民でしたが、南部ヤクートはウマやウシの畜産にも従事していました。どちらのグループもゲルと呼ばれる移動式住居に住み、季節に応じて居住地を移動する遊牧生活を送っていました。現代においても、伝統的な生活様式の一部は継承されていますが、社会は近代化が進み、定住生活を送るヤクート人も増えています。

ロシアとの歴史

17世紀初頭からロシア人がヤクートの居住地に入植し始めました。ロシアはヤクートを支配下に置き、毛皮税を課しました。17世紀半ばには、ヤクートの反乱が何度か発生しましたが、いずれもロシアによって鎮圧されました。その後、金の発見やシベリア鉄道の建設により、ロシア人の流入は増加し、ヤクート社会にも大きな変化がもたらされました。1820年代には、ほぼすべてのヤクートがロシア正教に改宗させられました。しかし、伝統的なシャーマニズムの信仰も現在まで一部に残されています。

20世紀と独立運動

1919年、ヤクート自治ソビエト社会主義共和国が成立しました。第二次世界大戦中は、ヤクート人の指導者ドミートリー・ヴィノクーロフが日本の支援を得てヤクーチアの独立を目指しましたが、成功には至りませんでした。1991年には、ヤクート共和国の独立宣言が出されましたが、ロシア人の人口が多かったことから、独立は実現しませんでした。現在、サハ共和国はロシア連邦の一部として、独自の文化と自治権を維持しながら発展を続けています。

宗教

ヤクート人の多くはロシア正教を信仰していますが、伝統的なシャーマニズムの信仰も一部に残っています。テュルク系民族であるにもかかわらず、イスラム教は広まっていません。この宗教的多様性は、ヤクート社会の特徴の一つと言えるでしょう。

文化と芸術

ヤクート人の文化は、厳しい自然環境の中で培われた独特のものです。伝統的な音楽や踊り、手工芸、そして口承文芸は、ヤクート人のアイデンティティを形作る重要な要素です。近年では、ヤクートの伝統文化を世界に発信する試みもなされています。例えば、喉歌はヤクートの伝統音楽として知られ、国際的にも高く評価されています。

現代のヤクート人

現代のヤクート人は、伝統と近代性を融合させながら生活しています。都市部では近代的な生活を送る一方で、伝統的な生活様式や文化を継承する動きも活発です。サハ共和国は、豊かな自然資源と独自の文化を持つ地域として、ロシア連邦の中で独自の地位を築きつつあります。今後、ヤクート人の社会や文化がどのように発展していくのか、注目されます。

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