ヤツデ

ヤツデ（八手）

ヤツデ（学名：Fatsia japonica）は、ウコギ科ヤツデ属に分類される常緑低木です。その特徴的な葉の形から、古くから人々に親しまれてきました。晩秋に白い花を咲かせ、黒い実をつけます。

名称の由来

和名「ヤツデ」は、掌状に深く切れ込んだ葉の形に由来します。一般的に葉は8つに裂けているように見えますが、実際には9つに裂けているものが多いです。「八」は、数が多いことを意味しています。また、別名として「テングノハウチワ（天狗の羽団扇）」と呼ばれることもあります。

学名の「Fatsia」は、日本語の「八」（古い発音で「ふぁち」、「ふぁつ」）または「八手（はっしゅ）」が転訛したものとされています。花言葉には、「分別」「親しみ」「健康」などがあります。

分布と生育環境

ヤツデは、本州（茨城県以南の太平洋側）、四国、九州、沖縄に分布しています。主に暖地の海岸近くの山林に自生し、日陰に強い性質を持ちます。そのため、日当たりの悪い森林内でもよく見られます。また、庭木としても広く植えられています。

形態と生態

ヤツデは、高さ2〜5メートルほどに成長する常緑低木で、多くは株立ちします。茎は数本がまとまって生え、ほぼ単一に伸びます。若い枝の樹皮は灰褐色で、V字形の葉痕が目立ちます。葉痕には維管束痕が十数個並んでいます。葉は互生または輪生し、20センチ[[メートル]]以上にもなる大きな葉を持ちます。葉の表面はつやがあり、下面はやや白っぽく、若い時には茶褐色の軟毛があります。掌状に深く裂け、若葉のときは卵形ですが、成長するにつれて3裂、さらに7、9、11と奇数に裂けていきます。葉の先端は尖っており、葉縁にはわずかな鋸歯があります。葉は2年ほどで柄ごと落葉し、落葉跡は半月型で目立ちます。

花期は晩秋（10〜12月）で、茎の先に球状の散形花序が集まり、大きな円錐花序を形成します。花は直径5ミリ[[メートル]]ほどの白色の5弁花で、両性花または雄花と雌花があります。雄しべは5本、雌しべ（花柱）も5本あり、花びらは小さく反り返っています。他の花が少ない時期に咲くため、ミツバチやハナアブなどの昆虫が蜜を求めて訪れ、受粉を助けます。果実は翌年の4〜5月に黒く熟します。

人間との関わり

ヤツデは丈夫で育てやすいため、庭木として広く利用されています。古くは魔除けの意味で庭に植えられていたとも言われています。

葉を乾燥させたものは「八角金盤」という生薬になり、去痰などの薬として用いられます。ただし、葉にはヤツデサポニンという物質が含まれており、過剰摂取すると下痢や嘔吐、溶血を引き起こす可能性があります。また、葉を刻んで浴湯料として風呂に入れると、リウマチに効果があるとされています。

昔は蛆の殺虫剤としても利用されていました。古い鉄道駅でよく見られるのは、かつて汲み取り便所の蛆殺しに使われていた名残です。

栽培品種と変種

ヤツデには、葉に白い斑が入ったフクリンヤツデ（覆輪八手）、葉縁が白いシロブチヤツデ（白斑八手）、黄色い斑があるキモンヤツデ（黄紋八手）、波打った葉縁が特徴のチジミバヤツデ（縮葉八手）、葉の裂片がねじれているヤグルマヤツデ（矢車八手）など、多くの変種や栽培品種が存在します。これらの変種は、庭木として珍重されています。

主な栽培品種と変種は以下の通りです。

フクリンヤツデ（学名: Fatsia japonica 'Albo-marginata'）
キモンヤツデ（学名: Fatsia japonica 'Aureo-variegata'）
チヂミバヤツデ（学名: Fatsia japonica 'Undulata'）
シロブチヤツデ（学名: Fatsia japonica 'Variegata'）
ヤグルマヤツデ（学名: Fatsia japonica f. lobulata）
リュウキュウヤツデ（学名: Fatsia japonica var. liukiuensis）

ヤツデ属

ヤツデ属（学名：Fatsia）には、以下の種が含まれます。

ヤツデ Fatsia japonica
ムニンヤツデ Fatsia oligocarpella：小笠原諸島に分布。
タイワンヤツデ Fatsia polycarpa：台湾に分布。

また、ヤツデとセイヨウキヅタの属間雑種であるツタヤツデ（ファツヘデラ）X Fatshedera lizei は、観葉植物として栽培されています。

外見が似ている植物として、カミヤツデ（Tetrapanax papyrifer）やクサヤツデ（Ainsliaea uniflora*）などがありますが、ヤツデとは分類上のつながりは遠いです。

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