ヤドー

ヤドー（Yaddo）：芸術家の創造性を育む聖地

ニューヨーク州サラトガ・スプリングズに位置するヤドーは、広大な敷地を有する芸術村です。ここでは、舞踊、映画、文学、音楽、絵画など、様々な分野のアーティストたちが集い、互いに刺激し合いながら創作活動に没頭できます。ヤドーの設立理念は、アーティストが協力的な環境の中で、何の妨げもなく制作に打ち込める機会を提供し、創造的なプロセスを育むことにあります。その功績が認められ、2013年にはアメリカ合衆国の国家史跡に指定されました。

ヤドーの歴史

ヤドーの地所は、1881年に資産家のスペンサー・トラスクとその妻カトリーナによって購入されました。夫妻はここに壮麗な邸宅を建設しましたが、1893年に火災で焼失。その後再建され、現在の姿となりました。「ヤドー」という名前は、トラスク夫妻の子供が「shadow（影）」と韻を踏む言葉として考案した造語です。

悲しいことに、トラスク夫妻の4人の子供は皆、幼くして亡くなりました。1900年、スペンサー・トラスクは妻への贈り物として、この地所を芸術家を支援する施設に転換することを決意します。慈善家のジョージ・フォスター・ピーボディの協力も得て、1926年に最初のアーティストたちがヤドーに滞在を開始しました。

ヤドーの庭園は、トラスク夫妻がヨーロッパ旅行で感銘を受けたイタリア式庭園をモデルに造られました。庭園には四季を象徴する像が設置され、その他にも様々な彫刻作品が点在しています。また、「Hours fly, Flowers die, New days, New ways, Pass by, Love stays.（時は流れ、花は枯れる。新しい日々、新しい道が過ぎ去る。愛は残る）」という言葉が刻まれた日時計も設置されています。現在、庭園は一般公開されていますが、芸術家が滞在する邸宅は非公開となっています。

マッカーシズムの嵐とエリザベス・エイムズ

1949年、マッカーシズムが吹き荒れる中、ヤドーは大きな衝撃に見舞われます。作家のアグネス・スメドレーがソ連のスパイであると告発されたのです。スメドレーは中国共産党の長征に従軍し、その様子を世界に伝えた人物でした。ヤドーに避難していた多くの知識人は、この事件に大きな衝撃を受けました。スメドレーは1943年から5年間、ヤドーに滞在していたのです。

当時の管理人であったエリザベス・エイムズはFBIの取り調べを受け、詩人のロバート・ロウエルは彼女を解任するよう求めました。しかし、エイムズは最終的にすべての罪状で不起訴となり、1977年に亡くなるまで管理人を務めました。彼女は1923年から50年以上にわたり、ヤドーのコミュニティを見守り続けたのです。

21世紀のヤドー

21世紀に入り、ヤドーは芸術家コミュニティのインスピレーションの源泉であり続けるために、様々な企画への寄付を募っています。100周年記念キャンペーンでは、スペンサー・トラスク社とその代表であったケヴィン・キンバーリンから多額の寄付を受けました。また、小説家のパトリシア・ハイスミスは、300万ドル相当の資産をヤドーに遺贈しました。

文学作品への登場

ケネス・フィアリングの小説「Dagger of the Mind」（1941年）は、ヤドーをモデルにした芸術家村を舞台にしています。また、ジョナサン・エイムズの小説「Wake Up Sir!」（2004年）にも、ヤドーが登場します。

著名な滞在者たち

ヤドーはこれまでに6,000人を超える芸術家を受け入れてきました。その中には、ハンナ・アーレント、ジェイムズ・ボールドウィン、レナード・バーンスタイン、エリザベス・ビショップ、トルーマン・カポーティ、ジョン・チーヴァー、アーロン・コープランド、パトリシア・ハイスミス、ラングストン・ヒューズ、テッド・ヒューズ、ユリシーズ・ケイ、スタンリー・クニッツ、ロバート・ローウェル、フラナリー・オコナー、シルヴィア・プラス、マリオ・プーゾ、カーソン・マッカラーズ、フィリップ・ロス、ヴァージル・トムソン、デヴィッド・フォスター・ウォレスなど、数々の著名な芸術家が含まれています。日本人では、冷泉彰彦、照屋勇賢、清水チャートリー、倉田裕也などが滞在しています。

ヤドーは、これからも芸術家たちの創造性を刺激し、新たな才能が開花する場所として、その歴史を刻み続けるでしょう。

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