ヤヌス (衛星)

ヤヌスについて

ヤヌス（Saturn X Janus）は、土星の第10衛星であり、同じく土星の衛星であるエピメテウスと特異な軌道共有関係にあることで知られています。この二つの衛星は、ほぼ同じ軌道を公転しながら、約4年ごとに接近し、軌道を交換するという珍しい現象を起こしています。

発見の経緯

ヤヌスの発見は、幾度かの誤報と再発見を経て、ようやく確実なものとなりました。

初期の発見報告: 20世紀初頭には、土星の10番目の衛星の存在が報告されましたが、長らく確認されず「幻の衛星」とされていました。19世紀末には、天文学者ウィリアム・ヘンリー・ピッカリングが撮影した写真乾板から新たな衛星を発見したと主張し、テミスと名付けましたが、後に誤報と判明しました。
再発見: 1966年12月15日、フランスの天文学者オドゥワン・ドルフュスが新たな衛星を発見し、ヤヌスと命名しました。しかし、この発見もその後の観測で確認されず、再び幻の衛星と見なされるようになりました。その後、リチャード・ウォーカーらの報告によって別の衛星（エピメテウス）が発見されましたが、当時はヤヌスと同一視されていました。1978年になり、スティーブン・M・ラーソンとジョン・W・ファウンテンによって、ドルフュスが発見した天体とウォーカーが発見した天体が別の天体であり、軌道を共有している可能性が指摘されました。
問題の解決: 1979年から1980年にかけて、多数の観測が行われ、無人探査機パイオニア11号やボイジャー1号による土星探査も行われました。これらの観測により、複数の仮符号（S/1979 S 1、S/1979 S 2、S/1980 S 1、S/1980 S 2、S/1980 S 9）を持つ天体が観測され、最終的にドルフュスが発見した天体と同一であることが確認されました。国際天文学連合は、ヤヌスの再発見者としてドルフュスとダン・パスキュを認めています。

名称

ヤヌスの名前は、ローマ神話の出入口と扉の神であるヤーヌスに由来します。この名称は、発見者のドルフュスが提案し、1983年9月30日に国際天文学連合によって正式に承認されました。

エピメテウスとの軌道共有

ヤヌスは、エピメテウスとほぼ同じ軌道を共有しており、約4年ごとに接近して軌道を交換しています。これは、ヤヌスとエピメテウスが1:1の平均運動共鳴をしている状態に相当し、互いに衝突することなく安定して土星の周りを公転しています。

物理的特徴

ヤヌスの表面は、数多くのクレーターで覆われており、中には直径30kmを超えるものも存在します。主要なクレーターには、カストル、フェーベ、イダス、リンケウスという名前が付けられています。また、火星の衛星フォボスに見られるような溝も発見されており、過去に衝突を経験したことを示唆しています。

ヤヌスとエピメテウスは、共通の母天体の破壊によって形成されたとする説があり、もしそうであれば、この破壊は惑星・衛星形成の初期段階で発生したと考えられます。これは、表面のクレーターから推定されるヤヌスとエピメテウスの表面が非常に古いことに基づいています。

ヤヌスの平均密度は0.63 g/cm³と低く、氷の密度よりも低いことから、衝突で発生した破片が重力で集まってできたラブルパイル天体であると考えられています。また、アルベドが高い値を示すことから、主成分が氷であると考えられています。

土星の環との関係

土星探査機カッシーニによる観測で、ヤヌスとエピメテウスが公転する領域には、薄い塵の環（ヤヌス/エピメテウス環）が存在することが判明しました。この環は、ヤヌスとエピメテウスの表面への隕石衝突によって発生した塵が軌道周辺に拡散した結果として形成されたと考えられています。

また、ヤヌスはエピメテウスとともに、土星の環のA環の維持にも関与していることが分かっています。両者はA環からやや離れていますが、7:6の軌道共鳴によってA環の明瞭な縁を形作っていると考えられています。

出典:

ザ・ナインプラネッツ 日本語版（ヤヌス）

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