ヤハズエンドウ

ヤハズエンドウ（カラスノエンドウ）

ヤハズエンドウ（Vicia sativa subsp. nigra）は、マメ科ソラマメ属に分類されるつる性の植物です。標準和名としてはヤハズエンドウが用いられますが、一般的にはカラスノエンドウの名前で広く知られています。その他、ノエンドウ、ピーピーグサなどの別名や俗称も存在します。

特徴

ヤハズエンドウは、本州から沖縄にかけての各地に分布し、日当たりの良い野原や道端、土手などでよく見られます。秋に発芽して越冬し、春になると成長して60cmから150cmほどの高さになります。茎は四角柱状で、全体に柔らかな毛が生えています。葉は偶数羽状複葉で、先端は巻きひげになっており、他の植物に絡みついて成長します。

花期は春から初夏にかけてで、紅紫色の蝶形の花を咲かせます。花の付け根には花外蜜腺があり、アリを引き寄せて害虫から身を守る役割を果たします。花が終わると、サヤエンドウを小さくしたような豆果をつけ、熟すと黒くなって種子を弾き飛ばします。

原産地は地中海沿岸地域で、古代には作物として栽培されていたことが考古学的証拠からわかっています。現在ではほぼ雑草として扱われていますが、若芽や若い豆果は食用にでき、熟した豆も炒って食べることができます。

利用

春先の若い芽先や葉、茎の先端部分、若いサヤは食用可能です。採取の適期は地域によって異なり、西日本では3～4月、関東・中部地方では4月、東北地方以北では4～5月頃が目安となります。アクは弱いため、軽く茹でてお浸しや和え物、卵とじ、汁物の具材、炒め物など、様々な料理に利用できます。また、生のまま天ぷらにすることも可能です。熟す前の若いサヤは、筋を取り除いて天ぷらやバター炒めなど、サヤエンドウのように調理できます。

その他、未熟な豆果の両端を切り落として、草笛として楽しむこともできます。

近縁種

ヤハズエンドウの近縁種としては、スズメノエンドウやカスマグサなどが挙げられます。これらの種は生育環境や季節が共通しているため、しばしば混生しています。ヤハズエンドウは大きめの花を少数つけるのに対し、スズメノエンドウは小さな花を多数つけます。カスマグサは小型の花を少数つけるのが特徴です。また、ヤハズエンドウには托葉に暗赤色の花外蜜腺がありますが、他の2種には見られません。

ヨーロッパには、より大型のオオヤハズエンドウという亜種が存在し、牧草として利用されています。近年では、日本にも帰化していることが確認されています。

このように、ヤハズエンドウは身近な雑草でありながら、食用や草笛として利用できる、多様な側面を持つ植物です。

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