ユージーン・スレッジ

ユージーン・B・スレッジ：戦場と学問、二つの世界を生きた男

ユージーン・ボンデュラント・スレッジ（1923年11月4日 - 2001年3月3日）は、アメリカ合衆国の軍人、生物学者、そして作家という、多彩な顔を持つ人物です。第二次世界大戦に従軍した経験を基に執筆した『ペリリュー・沖縄戦記』は、彼の代表作として広く知られています。この作品は、太平洋戦争の激戦地での兵士の視点から、戦争の残酷さ、人間の精神の強さ、そして喪失感を赤裸々に描き出し、読者に深い感銘を与えます。また、この著作は、HBO制作のドラマ『ザ・パシフィック』の原作の一つともなりました。

生い立ちと戦争への道

アラバマ州モービルで生まれたスレッジは、幼少期は病弱で本を好む少年でした。医師であった父親は、彼を外で遊ばせることで体を鍛えさせようと、釣りや狩りを教えました。真珠湾攻撃の知らせを聞いた時、スレッジは親友と共に海兵隊への入隊を志願しますが、リウマチ熱の影響で入隊は叶いませんでした。その後、大学で学びながらも、祖国のために戦うことを諦めきれず、海兵隊への入隊を決意します。

太平洋戦線での体験

過酷な訓練を経て、スレッジは海兵隊第1師団 第5海兵連隊 第3大隊K中隊に配属され、ペリリューの戦いや沖縄戦といった、太平洋戦争の中でも特に激戦地として知られる戦いに参戦しました。迫撃砲兵として戦場に身を置きながらも、時には担架兵として負傷兵を運び、時にはライフルを手に敵と戦いました。スレッジは、戦場で目にした光景、感じた感情、そして失われた命への哀悼の念を、肌身離さず持ち歩いていた新約聖書に書き留めました。これらのメモが、後に『ペリリュー・沖縄戦記』を執筆する上での貴重な資料となります。

戦後の苦悩と再生

終戦後、スレッジはオーバーン大学に進学し、生物学を専攻します。しかし、戦場での体験は彼の心に深い傷跡を残し、社会への適応に苦しみました。かつて熱中していた狩りも、動物を傷つけることに耐えられなくなり、止めてしまいます。そんなスレッジを救ったのは、父親からの勧めで始めたバードウォッチングでした。自然観察を通して、スレッジは再び生きる喜びを見出し、学問の道へと進むことになります。大学では植物学の修士号を取得後、フロリダ大学で生物学の博士号を取得。その後はアラバマ大学で生物学の教授として教鞭を執り、多くの学生に自然科学の魅力を伝えました。

著作と遺産

スレッジは、自身の戦争体験を綴った『ペリリュー・沖縄戦記』を1981年に出版しました。この作品は、戦争の現実をありのままに描き出し、多くの読者に衝撃を与えました。また、死後に出版された『China Marine』では、戦後の中国での占領任務や、戦争の心的外傷からの回復の過程が描かれています。ユージーン・B・スレッジは、戦争の悲惨さを体験し、それを乗り越えて学問と執筆活動を通して社会に貢献した人物として、記憶されるでしょう。

参考文献

* ユージン・B・スレッジ著　伊藤真・曽田和子訳『ペリリュー・沖縄戦記 （講談社学術文庫）』講談社、2008年。ISBN 978-4061598850。

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