ヨナグニサン

ヨナグニサン（与那国蚕）

ヨナグニサン（学名: Attacus atlas）は、ヤママユガ科に属する大型のガで、その壮大な姿は多くの人々を魅了します。かつては日本最大のガとされていましたが、近年の研究により、オセアニアに生息するヘラクレスサンに次ぐ2番目の大きさであることが判明しました。しかし、その存在感は今もなお圧倒的で、昆虫の中でも特に注目される種の一つです。

名称の由来

種小名 atlas は、ギリシャ神話に登場する巨神アトラスに由来し、その巨大な体躯を象徴しています。英語では「atlas moth」、中国語では「皇蛾」と呼ばれています。和名の「ヨナグニサン」は、昆虫学者の松村松年によって命名され、かつては「オオアヤニシキ」とも呼ばれていました。

分布

ヨナグニサンは、インドから東南アジア、中国、台湾、そして日本にかけて広く分布しています。琉球亜種（A. a. ryukyuensis）は、この種の分布の北限にあたり、日本の沖縄県八重山諸島（石垣島、西表島、与那国島）にのみ生息しています。この亜種は、他の亜種に比べて羽の三角模様がやや大きいのが特徴です。ただし、八重山諸島に分布する個体群は、台湾から移入された外来種である可能性も指摘されています。

形態

ヨナグニサンは、オスとメスで大きさに若干の違いが見られます。オスは体長約48-51mm、前翅長約100-130mmであるのに対し、メスは体長約50-53mm、前翅長約130-140mmと、メスの方がやや大きいです。体色は赤褐色で、前翅の縁が黒褐色、内横線は白色をしています。前翅の先端が鎌状に曲がっているのが特徴的です。成虫になると口器（口吻）が退化して失われるため、食事をすることができず、幼虫時代に蓄えた栄養のみで生きます。そのため、成虫の寿命は長くても1週間程度です。

また、前翅の先端部には蛇の頭のような模様があり、これを相手に見せて威嚇するとも言われていますが、確証は得られていません。ヨナグニサンは灯火によく飛来します。

分類

ヨナグニサンの分類に関しては、複数の説があります。1989年に提唱された分類体系では、本種を4つの型に区分し、亜種を認めないという説もあります。一方で、1993年には与那国島産の標本に基づき、亜種 A. a. ryukyuensis が記載され、台湾産の個体群を亜種 A. a. formosanus として認める説も存在します。

生態

ヨナグニサンは森林域に生息し、幼虫はアカギ、モクタチバナ、フカノキ、カンコノキ類、トベラ、ショウベンノキなどを食草とします。年に3回発生し、発生時期は4月、7月下旬から8月上旬、10月中旬頃です。卵から成虫までの期間は、温度によって大きく変動します。熱帯地域に生息するにもかかわらず、高温下では成長が遅れるという特徴があります。幼虫は2齢までは2～5頭程度の群れを作ります。天敵としては、カタビロコバチの一種やコマユバチの一種が知られており、特に草地にいる幼虫は寄生される確率が高いです。

保護状況

ヨナグニサンは、沖縄県の天然記念物に指定されており、その生息地である与那国島宇良部岳も保護対象となっています。環境省のレッドリストでは準絶滅危惧（NT）に指定されており、沖縄県版レッドデータブックでは絶滅危惧II類に分類されています。地域ではヨナグニサンを保護する活動が盛んに行われており、与那国方言では「アヤミハビル」（模様のある蝶）と呼ばれ、地元の人々にも親しまれています。

与那国島にはヨナグニサンの博物館である「アヤミハビル館」があり、ヨナグニサンの生態やその他の情報について詳しく紹介されています。

参考文献

東清二「巨大蛾ヨナグニサンを守る」『週刊朝日百科動物たちの地球』78（イラガ・ヨナグニサンほか）、1992年12月20日。
東清二「ヨナグニサン」『改訂・沖縄県の絶滅のおそれのある野生生物（動物編）-レッドデータおきなわ-』、沖縄県文化環境部自然保護課編、2005年、247-248頁。
岸田泰則「ヨナグニサン」、環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編『レッドデータブック2014 5 昆虫類 ―日本の絶滅のおそれのある野生生物―』ぎょうせい、2015年、441頁。

関連項目

沖縄県指定文化財一覧
ヤママユガ
シンジュサン
ミンダナオオオヤママユ（オオヨナグニサン）

外部リンク

環境省絶滅危惧種情報検索
* アヤミハビル館(ヨナグニサン博物館)

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