ヨハネス・シュタルク

ヨハネス・シュタルク：輝かしい業績と暗い影

ヨハネス・シュタルク（1874年-1957年）は、ドイツを代表する物理学者の一人です。バイエルン公国で生まれ、ミュンヘン大学で物理学と化学を学び、1897年に博士号を取得しました。その後、アーヘン工科大学やグライフスヴァルト大学で教授を務め、ヴュルツブルク大学、そして国立理工学研究所長を歴任するなど、華々しいキャリアを築きました。

彼の最大の功績は、1913年のシュタルク効果の発見です。これは、電場中の原子から放出される光のスペクトル線が、電場の影響を受けて複数の線に分裂する現象です。この発見は原子構造の理解に大きく貢献し、1919年にはノーベル物理学賞を受賞する栄誉に輝きました。さらに、1905年にはカナル線におけるドップラー効果を発見するなど、物理学の発展に多大な貢献をしました。

しかし、シュタルクの生涯は、科学的な功績だけで語られるものではありません。ナチス・ドイツの台頭後、彼はフィリップ・レーナルトと共に「ドイツ物理学」を提唱し、アインシュタインの相対性理論を「ユダヤ物理学」と断じ、激しい反ユダヤ主義的な立場をとりました。これは、彼がナチス政権から優遇されたこととも無関係ではありません。当時のドイツの学術界は、ナチスのイデオロギーに染まりつつあり、シュタルクはその流れに積極的に加担したのです。

第二次世界大戦後、シュタルクは非ナチ化法廷で4年の禁固刑を宣告されました。彼の反ユダヤ主義的な活動や、ナチス政権への協力は、彼の科学的業績を大きく霞ませるものとなりました。彼の生涯を紹介する多くの文献が破棄されたという事実からも、彼の行為の重大さがわかります。

シュタルクの例は、科学における倫理の重要性を示す、痛烈な教訓となっています。科学者は、優れた業績を残すことだけでなく、倫理的な責任を常に意識し、行動することが求められます。彼の業績は現代物理学に大きな影響を与えていますが、その人物像は、私たちに多くの問いかけを投げかけてきます。科学技術の進歩は、常に人道的な視点と倫理的な配慮を伴って進められるべきであるという、重いメッセージを、シュタルクの生涯は私たちに伝えていると言えるでしょう。

彼の業績と、その後の彼の行動との乖離は、私たちに深い反省を促します。科学の進歩は、人々の幸せに貢献するものでなければなりません。科学の進歩を目的とするならば、科学者自身の倫理観と責任感の重要性を再認識する必要があるでしょう。シュタルクの生涯は、そのことを改めて私たちに示す、歴史的な事例といえるでしょう。

参考文献
高橋昌一郎『天才の光と影 ノーベル賞受賞者23人の狂気』PHP研究所、2024年5月。ISBN 978-4-569-85681-0。

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