ヨハネス2世コムネノス

ヨハネス2世コムネノスは、1087年9月13日に東ローマ帝国の皇帝アレクシオス1世の長男として生まれました。当初、父アレクシオス1世は、自身の娘アンナの婚約者であるコンスタンティノス・ドゥーカスを後継者候補としていました。しかし、ヨハネスは1091年から1092年の間に共同皇帝として戴冠し、後継者としての地位を確立します。

1118年、アレクシオス1世の死後、ヨハネス2世は皇帝として即位しますが、この時、姉のアンナと母エイレーネーは、アンナの夫ニケフォロスを皇帝にしようと画策しました。ヨハネスは、父の死を前に急いで宮殿へ赴き、即位の既成事実を作ることでこの陰謀を阻止しました。その後、アンナはヨハネス暗殺を企てますが、これも失敗に終わります。ヨハネス2世は、姉を殺さずに寛大な処置を取ったことで民衆から尊敬され、「善良なるヨハネス」を意味する「カロヨハネス」と呼ばれるようになりました。

ヨハネス2世は、賢明で思慮深く、かつ強靭な精神の持ち主でした。彼は帝国の再興のために倹約に努め、父の政策を継承し軍事力を再建しました。対外的には、ヴェネツィア共和国との戦いに敗れたものの、北方ではペチェネグ人を壊滅させ、東方では小アジアの失われた領土を回復しました。1136年にはキリキア・アルメニア王国を滅ぼし、翌年にはアンティオキア公国を屈服させ、東地中海における帝国の地位を再び確立しました。また、ヨハネス2世は貴族優遇政策を踏襲しつつも、トルコ人のヨハネス・アクスークのような有能な人物を側近に取り立て、貴族と官僚のバランスを保ちながら国政を運営しました。

同時代人や後世の歴史家は、ヨハネス2世をコムネノス朝の皇帝の中で最も優れた人物と評しており、現代の歴史学者も彼を歴代の東ローマ皇帝の中でも屈指の名君として認めています。

ヨハネス2世の晩年には、長男のアレクシオスと次男のアンドロニコスが相次いで亡くなるという不幸がありました。1143年、ヨハネス2世は遠征先のシリアで狩猟中に誤って毒矢を刺してしまい、亡くなります。臨終の際には、暗愚な三男のイサキオスではなく、四男のマヌエルを後継者に指名しました。

ヨハネス2世の外交政策は、神聖ローマ帝国との同盟を重視するものでした。これは、南イタリアで勢力を拡大していたシチリア王国のルッジェーロ2世を牽制するため、神聖ローマと東ローマの両国にとって共通の利益でした。

ヨハネス2世は、1104年にハンガリー王女ピロシュカ（後のエイレーネー）と結婚し、8人の子供をもうけました。彼の子女には、共同皇帝となったアレクシオス、マリア、アンドロニコス、アンナ、イサキオス、テオドラ、エウドキア、そして後の皇帝マヌエル1世がいます。

ヨハネス2世コムネノスの治世は、東ローマ帝国の再興期として重要な時期であり、彼の卓越した統治能力は後世に大きな影響を与えました。


参考文献

井上浩一、栗生沢猛夫『世界の歴史11 ビザンツとスラヴ』中央公論社、1998年。
井上浩一『ビザンツ皇妃列伝 憧れの都に咲いた花』白水社、2009年（原著1996年）。
井上浩一『歴史学の慰め　アンナ・コムネナの生涯と作品』白水社、2020年。
尚樹啓太郎『ビザンツ帝国史』東海大学出版会、1999年。
* ゲオルク・オストロゴルスキー 著、和田廣 訳『ビザンツ帝国史』恒文社、2001年（原著1940年）。

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