ヨハン・フリードリヒ・アグリコーラ

ヨーハン・フリードリヒ・アグリーコラ（Johann Friedrich Agricola, 1720年1月4日 - 1774年12月2日）は、18世紀ドイツで活躍した多才な音楽家です。彼は作曲家、オルガニスト、歌手、教育者、そして音楽に関する著述家として知られています。時にはフラーヴィオ・アニーチョ・オリブリオ（Flavio Anicio Olibrio）というペンネームを用いることもありました。

生涯

アグリーコラは、現在のドイツ中部、テューリンゲン州にあたるザクセン＝ゴータ＝アルテンブルク公国のドービチェンに生まれました。若い頃、彼はライプツィヒ大学で法学を修める一方で、著名な作曲家であるヨハン・ゼバスティアン・バッハに音楽の手ほどきを受けました。彼は一時、バッハの養子として暮らした時期もあったと伝えられています。1741年にはベルリンへ移り、当地で高名なフルート奏者であり作曲家でもあったヨハン・ヨアヒム・クヴァンツに作曲を師事し、さらに研鑽を積みました。

ベルリンに移って間もなく、アグリーコラはその優れた才能によって、同時代の最も優れたオルガニストの一人として広く認められるようになりました。彼のキャリアにおいて重要な転機となったのは1750年、ポツダムで上演された彼の喜劇オペラ「Il filosofo convinto in amore」（愛に納得した哲学者）が成功を収めたことです。この成功が認められ、彼はプロイセン王フリードリヒ2世の宮廷作曲家に任命されました。さらに1759年、当時の宮廷楽長であったカール・ハインリヒ・グラウンが亡くなると、アグリーコラはその後任として宮廷管弦楽団の指揮者に昇進しました。

私生活では、アグリーコラは宮廷の著名なオペラソプラノ歌手であったベネデッタ・エミリア・モルテーニと結婚しました。しかし、これは宮廷内で雇われている者同士の結婚を禁じる王の命令に背く行為でした。この規則違反に対する罰則として、王はアグリーコラ夫婦に対し、二人合わせた年間の給与を合計1,000ターラーに減額するよう命じました。これは、もともとアグリーコラ単独で年間1,500ターラーの収入があったことを考えると、厳しい処分でした。アグリーコラはその後もベルリンで活動を続け、54歳でその生涯を閉じました。

作品と業績

アグリーコラは生涯を通じて、多岐にわたる音楽作品を作曲しました。特に、当時の流行であったイタリアオペラを手がけたほか、ドイツ語のリート（歌曲）、オルガンやチェンバロなどの鍵盤楽器のためのコラール前奏曲やその他の作品、さらにはオラトリオやカンタータといった教会音楽なども作曲しています。しかしながら、彼の音楽家としての名声は、作曲そのものよりも、むしろ音楽理論や評論といった著述活動によって主に確立されました。

彼は、同時代の音楽家や音楽作品に関する重要な著作を多数残しています。1757年には、J.S.バッハの息子であるカール・フィリップ・エマヌエル・バッハと共同で、父J.S.バッハの追悼記事を執筆しました。これは、バッハの生涯や業績に関する初期の重要な資料の一つとなっています。また、同じ1757年には、彼の最も重要な著作とされる「Anleitung zur Singekunst」（歌唱芸術入門）を出版しました。これは、イタリアの音楽理論家ピエル・フランチェスコ・トージが1723年に著した声楽に関する論文「Opinioni de' cantori antichi e moderni」（古今声楽家の意見）をドイツ語に翻訳したものでしたが、彼は単なる翻訳に留まらず、自身による詳細かつ広範な注釈を多数付け加えることで、この著作に独自の価値を与えました。さらに、1768年にヤーコプ・アードルングの遺作であるオルガンに関する著作「Musica mechanica organoedi」を編集し、ここにも多くの注釈を加えて出版しています。

アグリーコラは、バッハの薫陶を受け、クヴァンツに師事した経歴を持ち、プロイセン宮廷の中心人物として活躍した音楽家でした。彼の作曲作品も重要ですが、特に音楽理論や歴史に関する深い知識に基づいた彼の著述は、当時の音楽実践や美学を理解する上で貴重な資料となっており、多方面にわたる彼の貢献を現代に伝えています。

もう一度検索