ヨランド・ダンジュー

ヨランド・ダンジュー：波乱の生涯とロレーヌ公国の歴史

ヨランド・ダンジュー（Yolande d'Anjou, 1428年11月2日 - 1483年3月23日）は、15世紀のヨーロッパにおいて、その生涯が複雑な政治的背景と家族間の争いに彩られた女性です。彼女はロレーヌ女公（在位：1473年）、バル女公（在位：1480年 - 1483年）として知られています。父はナポリ王、アンジュー公兼ロレーヌ公ルネ・ダンジュー（ルネ1世）、母はロレーヌ女公イザベルであり、ジャン2世の妹、イングランド王ヘンリー6世妃マルグリットの姉にあたります。

結婚と継承問題

1445年、ヨランドはヴォーデモン伯フェリー2世（1420年 - 1470年）と結婚しました。ヴォーデモン伯家は、ヨランドの母方の祖父であるロレーヌ公シャルル2世の弟フェリー1世に始まる、かつてのロレーヌ公家であるシャトノワ家の分家でした。フェリー2世はフェリー1世の孫であり、ヨランドの又従兄弟にあたります。

ヨランドの結婚は、単なる縁組ではなく、ロレーヌ公位の継承問題を解決するための政治的な妥協の産物でした。母イザベルが祖父シャルル2世からロレーヌ公位の継承者に指名された際、従叔父のヴォーデモン伯アントワーヌ（フェリー1世の子）がこれに反対。ブルゴーニュ公フィリップ3世（善良公）の支援を受けたアントワーヌは、ヨランドの父ルネと戦闘になり、ルネは1431年から幽閉されてしまいます。その後、ルネは釈放され、アントワーヌとの間に妥協が成立。その結果、それぞれの子供たちであるヨランドとフェリー2世の結婚によって継承問題に決着がつけられることとなりました。

子孫と家系の発展

ヨランドとフェリー2世の間には、以下の子供たちが生まれました。

ルネ2世（1451年 - 1508年） - ロレーヌ公
ニコラ（? - 1476年）
ピエール（? - 1451年）
ジャンヌ（1458年 - 1480年） - ヨランドの従弟アンジュー公シャルル4世と結婚
ヨランド（? - 1500年） - ヘッセン方伯ヴィルヘルム2世と結婚
マルグリット（1463年 - 1521年） - アランソン公ルネと結婚

ヨランドの子孫は、後にハプスブルク＝ロートリンゲン家やギーズ家へと分かれていきます。これらの家系は、ヨーロッパの歴史において重要な役割を果たすことになります。

ロレーヌ女公としての短い期間

甥のニコラ・ダンジューが独身のまま死去すると、ヨランドはロレーヌ公国を相続しましたが、すぐに息子のルネに譲りました。資料によっては、ヨランドをロレーヌ女公としないものや、夫フェリー2世をロレーヌ公フレデリック（フェリー）5世としているものもあります。彼女の公位継承は、ロレーヌ公国の歴史における重要な転換期であったと言えるでしょう。

参考文献

森護『英国王妃物語』三省堂、1986年。
ジョゼフ・カルメット著、田辺保訳『ブルゴーニュ公国の大公たち』国書刊行会、2000年。
ジュール・ミシュレ著、桐村泰次訳『フランス史[中世]V』論創社、2017年。

関連事項

イオランタ

ヨランド・ダンジューの生涯は、中世ヨーロッパの貴族社会における政治的駆け引きと家族間の複雑な関係を反映しています。彼女の人生は、歴史を学ぶ上で重要な視点を提供してくれるでしょう。

もう一度検索