ヨープスト・フォン・メーレン

ヨープスト・フォン・メーレン：ヨーロッパを揺るがした辺境伯からローマ王対立王へ

ヨープスト・フォン・メーレン（1351年-1411年）は、14世紀から15世紀初頭にかけて活躍した、ヨーロッパ史に大きな足跡を残した人物です。モラヴィア辺境伯、ルクセンブルク公、ブランデンブルク選帝侯、そしてローマ王（対立王）という、いくつもの重要な地位を歴任しました。彼の生涯は、複雑な国際政治、王朝間の抗争、そして個人的な野心といった要素が絡み合い、ヨーロッパの勢力図を大きく変動させることになります。

ヨープストは、ボヘミア王ヨハン（盲目王）の息子であり神聖ローマ皇帝カール4世の弟であるモラヴィア辺境伯ヨハン・ハインリヒと、オパヴァ＝ラチブシュ公ミクラーシュ2世の娘マルガレーテとの間に生まれました。従兄には、ローマ王ヴェンツェルと神聖ローマ皇帝兼ハンガリー王・ボヘミア王ジギスムントがおり、彼らとの関係がヨープストの運命を大きく左右することになります。

若きヨープストは、ハンガリー宮中伯を務めたオポーレ公ヴワディスワフの娘エルジュビェタと結婚しますが、すぐに死別。その後、ヴワディスワフの妹アグニェシュカと再婚しますが、子供には恵まれませんでした。

ヨープストの生涯における転機は、従兄であるヴェンツェルとジギスムント兄弟への多額の融資と軍事援助です。その功績からか、1388年、ヴェンツェルとジギスムントから、ルクセンブルク公領とブランデンブルク選帝侯領を、借金の抵当として譲り受けます。この出来事は、ヨープストの野心をさらに増大させることになります。

しかし、ヨープストの野心は、単なる金銭的な利益追求にとどまりませんでした。1394年、彼はヴェンツェルと対立するボヘミア貴族と手を組み、ヴェンツェルを捕らえて監禁するという大胆な行動に出ます。しかし、翌年にはヴェンツェルの報復を受け、自身も監禁されることになります。

ブランデンブルクの統治は義弟のマイセン辺境伯ヴィルヘルム1世に委ねられ、ルクセンブルクはオルレアン公ルイに転売されました。しかし、1407年にルイが暗殺されたことで、ルクセンブルクはヨープストのもとへ戻ってきました。

男子のいないジギスムントは、1400年にヨープストを後継者に指名します。しかし、ヨープストはヴェンツェルとジギスムント兄弟を脅かす勢力を形成し、ジギスムントとの関係は険悪なものとなりました。1401年にはハンガリー貴族のジギスムントへの反乱に便乗し、ブラチスラヴァを占拠。同年にはローマ王ループレヒトの軍勢がボヘミアに迫った際には、彼に加勢しています。こうしたヨープストの動きに警戒したジギスムントは、1402年に後継者をヨープストからオーストリア公アルブレヒト4世に変更し、ヨープストの捕縛を企てますが、失敗に終わります。

ループレヒトの死後、1410年、ジギスムントの反対を押し切って、ヨープストはローマ王位を主張し、対立王として即位します。しかし、翌1411年、ヨープストは急死。ジギスムントが単独のローマ王となりました。ジギスムントはブランデンブルク選帝侯にも復位し、ルクセンブルクはジギスムントの姪エリーザベトが相続することになります。

ヨープスト・フォン・メーレンの生涯は、野心、権力闘争、そして時代の波乱に翻弄された、ドラマチックなものでした。彼の行動は、ヨーロッパの政治情勢に大きな影響を与え、現代の歴史研究においても重要な位置を占めています。彼の複雑な生き様は、多くの歴史家によって研究され、その解釈は多様です。しかし、彼なしに14世紀末から15世紀初頭のヨーロッパの歴史を語ることは不可能でしょう。

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