ライトグライダー

ライトグライダー：動力飛行への序章

ライトグライダーは、ライト兄弟が有人動力飛行機ライトフライヤー号の開発に先立ち製作した3機のグライダーです。兄弟は、動力機の開発前にグライダーを通じて操縦系統と操縦方法を確立することを目的としていました。また、予備試験として凧も製作しています。ライトグライダーの開発を通じて、既存の航空力学の知識だけでは不十分であることを悟り、風洞実験を開始しました。本稿では、ライトフライヤー号の初飛行後、1911年にエンジンを撤去してグライダー化した機体についても解説します。

1899年：凧

翼長1.5mのこの凧は、パイロットを乗せるには小さすぎましたが、飛行制御において不可欠な「たわみ翼」のテストに十分な大きさでした。このテスト結果は、グライダー開発の基礎となりました。

1900年：グライダー

最初の機体である「1900グライダー」は、オットー・リリエンタールのデータをもとに設計されました。ライト兄弟は気象観測データを参考に、居住地であるオハイオ州デイトンからノースカロライナ州キティホークへ移り、実験を行いました。1900年10月5日から18日にかけて、キティホーク近郊のキルデビルヒルズでテストを実施しましたが、期間の大半は凧としてのテストに費やされました。たわみ翼の反応は良好でしたが、事前に計算していた揚力が得られなかったため、人を乗せての滑空はわずか十数回に留まりました。兄弟はテスト終了後、機体を着陸地点に放棄して帰路につきました。放棄された機体の布地は、協力者であったキティホークの郵便局長の娘の服地として利用され、残骸は1901年7月の強風で吹き飛ばされました。

1901年：グライダー

2番目の試験機である「1901グライダー」は、1900グライダーを基に翼を大型化したものでした。1901年7月27日に初飛行を行い、同年8月17日までテストを行いました。凧としてのテストに加え、50回から100回もの有人飛行を成功させました。しかし、この機体には、パイロットの重量でリブが曲がり翼型が変化してしまう問題があり、揚力不足や、たわみ翼が意図した方向とは逆の方向に機体を動かしてしまうなどの課題も残されました。テスト終了後、グライダーはキルデビルヒルズに自作した格納庫に保管されましたが、後に暴風で格納庫が損傷。主翼の支柱部分は1902グライダーに再利用されたものの、それ以外は廃棄されました。

1902年：グライダー

3番目の試験機である「1902グライダー」は、ライト兄弟のグライダーとして初めてヨー・コントロール（左右の首振り運動の制御）を採用し、この設計はライトフライヤー号へと引き継がれました。1901年末から1902年初頭にかけて、デイトンの自宅で設計が行われ、自作の風洞を用いた詳細なテストデータを基に開発されました。多くの部品は自宅で製作され、1902年9月にキルデビルヒルズで組み立てが完了しました。

1902年9月19日から5週間のテスト期間中に、700回から1,000回にも及ぶ有人飛行テストが行われました（ライト兄弟の推測）。最長飛行距離は189.7m、飛行時間は26秒を記録しました。1903年には、ライトフライヤー号のテストのためにキルデビルヒルズを訪れた際、操縦技術を向上させるため、1902グライダーも飛行させました。ライトフライヤー号による歴史的な初飛行は1903年12月17日に成功しました。その後、兄弟は1902グライダーを格納庫に再び保管し、飛行実験の場をデイトンのハフマンプレーリーへと移しました。兄弟が次にキルデビルヒルズを訪れたのは1908年で、改良型ライトフライヤー3号のテストのためでしたが、その時格納庫は崩壊しており、1902グライダーも破損していました。

レプリカ

1902グライダーは複数のレプリカが製作されており、1934年にはオーヴィル・ライトの協力を得てアメリカ陸軍航空隊が2機を製造しました。そのうち1機はライト兄弟メモリアルビジターセンターに保存されており、もう1機は事故で失われました。1980年には、熱心なファンによって飛行可能なレプリカが作られ、数々の映画やテレビドキュメンタリーに出演し、1986年にはオムニマックスにも登場しました。また、ニューヨーク州エルミラのナショナル・ソアリング博物館には、1902年型と1911年型グライダーのレプリカが展示されています。

スペック

乗員：1名
全長：4.9 m
翼長：9.8 m
全高：2.4 m
翼面積：28.3 m2
空虚重量：53 kg
飛行距離：189.7 m

1911年：グライダー

1911年、オーヴィルは友人アレク・オグリビーと共に、新たなグライダーを携えてキルデビルヒルズを訪れました。このグライダーには、昇降舵というよりも現代的な視点から見ると「従来型の水平尾翼」が装備されていました。パイロットは旧型グライダーのようにうつ伏せではなく、座席に座って手で操作するスタイルでした。1911年10月24日、オーヴィルは合成風力65km/hの条件下でキルデビル砂丘上空を9分45秒滑空し、1903年1月に1902グライダーで達成した1分12秒の記録を大幅に更新、グライダーの滞空時間世界記録を樹立しました。

スペック

乗員：1名
全長：6.5 m
翼長：9.8 m
全高：不明
翼面積：28 m2
空虚重量：53 kg

参考文献

Crouch, Tom, "The Thrill of Invention." Air&Space/Smithsonian, April/May 1998, pp. 22-30.
Wescott, Lynanne, Paula Degen (1983). Wind and Sand: The Story of the Wright Brothers at Kitty Hawk. New York, New York: Harry N. Abrams, Inc.

外部リンク

ライト兄弟のひみつ: ライトグライダーの写真・解説
First Flight Society: ライト凧とグライダーの写真ページ
History of Soaring: ソアリングの歴史

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