ライヴ・イン・トーキョー

ウェザー・リポートが初めて公式にリリースしたライブ・アルバムが、この『ライヴ・イン・トーキョー』です。彼らはアメリカを拠点に活動するエレクトリック・ジャズ、あるいはフュージョンと呼ばれる音楽スタイルの草分け的なバンドとして知られています。この作品は、彼らの初期における白熱したライブパフォーマンスを捉えた貴重な記録となっています。

アルバムの背景

本アルバムに収められている音源は、1972年1月13日に日本の東京で行われたコンサートで録音されました。この年のウェザー・リポートは日本を訪れ、合計5回の公演を行いました。当時の日本における彼らの人気は非常に高く、開催されたコンサートは全てチケットが売り切れとなるほどの盛況ぶりでした。その熱気に満ちたステージの中から、特に優れたパフォーマンスがこのライブ・アルバムとして選ばれたのです。

先行作品との違い

『ライヴ・イン・トーキョー』が発表される少し前、ウェザー・リポートはスタジオ・アルバム『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』をリリースしています。実は、そのアルバムにもこの1972年の日本公演で録音された音源の一部が収録されていました。しかし、そちらはアルバム全体の構成や流れを考慮し、演奏に編集が施されたバージョンでした。

対照的に、この『ライヴ・イン・トーキョー』では、ライブという形式ならではの臨場感や、バンドメンバー間のリアルタイムでの相互作用を重視し、録音された演奏がほぼそのままの形で収められています。これは、スタジオでの緻密な作り込みとは異なる、ライブならではの予測不能な展開や即興性をありのままにリスナーに届けたいというバンド側の意図があったためと考えられます。結果として、このアルバムには当時のウェザー・リポートが放っていた生のエネルギーがダイレクトに記録されています。

参加メンバー

この『ライヴ・イン・トーキョー』の録音時にウェザー・リポートのメンバーとしてステージに立っていたのは、以下の5名です。

ウェイン・ショーター: テナー・サックス、ソプラノ・サックス
ジョー・ザヴィヌル: エレクトリック・ピアノ、アコースティック・ピアノ
ミロスラフ・ヴィトウス: エレクトリック・ベース、アコースティック・ベース
エリック・グラヴァット: ドラム
* ドン・ウン・ロマン: パーカッション

バンドの中心人物であるサックスのウェイン・ショーターとキーボードのジョー・ザヴィヌルに加え、創設メンバーの一人であるベーシストのミロスラフ・ヴィトウス、そしてドラムとパーカッション奏者が名を連ねています。この編成による演奏は、バンド初期のサウンドを特徴づけています。

アルバムの意義

『ライヴ・イン・トーキョー』は、ウェザー・リポートにとって初めて公式に発表されたライブ録音作品であるという点において、非常に大きな意義を持っています。このアルバムがリリースされるまで、彼らのサウンドは主にスタジオ作品を通じて知られていましたが、このライブ盤によって、彼らの音楽がいかにライブパフォーマンスにおいて輝きを増すのかが多くのリスナーに示されました。

スタジオでの精密なアンサンブルや音作りはもちろん彼らの魅力ですが、ライブステージでは、メンバーそれぞれの卓越した演奏技術と、瞬間のひらめきから生まれるインプロヴィゼーションがぶつかり合い、スタジオ作品とはまた異なるスリリングなサウンドが展開されます。このアルバムは、そうしたライブならではの魅力を余すところなく捉えており、ウェザー・リポートというバンドの本質的な部分、すなわち絶えず変化し、進化し続ける彼らの音楽性の根幹に触れることができる作品と言えるでしょう。

当時のエレクトリック・ジャズ／フュージョンシーンはまだ新しい動きとして始まったばかりでした。ウェザー・リポートはその牽引者の一組として、多くのミュージシャンやリスナーに影響を与えていました。この『ライヴ・イン・トーキョー』は、その熱気と創造性が最高潮に達していた時期のパフォーマンスを真空パックしたかのような作品であり、バンドのディスコグラフィーの中でも、そしてフュージョンというジャンルの歴史においても、重要な位置を占める名盤として今日でも高く評価されています。

日本での熱狂的な歓迎の中で生まれたこのアルバムは、単なるライブの記録にとどまらず、ウェザー・リポートという比類なきバンドの初期衝動と、彼らが切り開こうとしていた新たな音楽の可能性を力強く証明する作品となっています。

もう一度検索