ラウンデルを持つ青年の肖像

ラウンデルを持つ青年の肖像

『ラウンデルを持つ青年の肖像』（伊: Giovane uomo con in mano una medaglia）は、ルネサンス期の巨匠サンドロ・ボッティチェッリに帰属される絵画作品です。制作年代は1480年頃と推定され、その様式は当時のフィレンツェにおける美術の潮流を色濃く反映しています。この作品は、一人の青年がラウンデル（円形の装飾）を持っている姿を描いており、その人物像は、当時の上流社会の美的感覚を如実に表していると考えられています。

作品の特徴

肖像画に描かれた青年が誰であるかは明確には判明していません。しかし、ボッティチェッリの主要な後援者であったロレンツォ・デ・メディチとの関連から、メディチ家の一員である可能性も指摘されています。青年の身につけているチュニックは、シンプルながらも上質な素材が用いられ、その鮮やかな青色は、当時非常に希少で高価なものでした。この青色は、絵画全体の品格を高め、見る者を惹きつけます。

作品はポプラ板にテンペラで描かれており、サイズは縦58.7cm、横38.9cmです。この絵画の特徴的な要素であるラウンデルには、後から聖人の姿が描き加えられました。この聖人像は、バルトロメオ・ブルガリーニの作品であると考えられています。ラウンデルの追加は、作品に更なる宗教的、象徴的な意味を付与しています。

歴史的背景

この絵画の最初の記録は、1938年にカーナボンのニューバラ男爵が所有していた時に遡ります。当時、美術商のフランク・サビンがニューバラ男爵の邸宅を訪れ、絵画を査定しました。ニューバラ男爵が絵画の価値を正確に理解していなかったため、サビンは比較的安価でこの作品を手に入れることができました。美術史家たちは、初代ニューバラ男爵が1782年から1791年の間にフィレンツェに滞在していた際に、この絵画がニューバラ家の所蔵になったと推測しています。

その後、1941年にフランク・サビンはコレクターのトーマス・マートン卿にこの作品を売却しました。マートン卿の所有時代に、この肖像画は初めてボッティチェッリの作品として記述されました。マートン卿の子孫は、1982年にクリスティーズのオークションで81万ポンドでこの作品を売却しました。マートン家がこの作品を所持していた間、1960年の王立芸術アカデミーが開催した「イタリア美術展」のポスターにもこの肖像画が使用されました。

1982年のオークションでシェルドン・ソローがこの肖像画を購入した後、メトロポリタン美術館（ニューヨーク）、ナショナル・ギャラリー（ロンドン）、シュテーデル美術館（フランクフルト）など、世界有数の美術館に貸し出されました。特にシュテーデル美術館では、2009年から2010年にかけて開催された「ボッティチェッリ展」で展示され、多くの観客の注目を集めました。

帰属と評価

『ラウンデルを持つ青年の肖像』がサンドロ・ボッティチェッリの作品であるという帰属は、過去に美術史家の間で議論されてきました。しかし、現在では大多数の美術史家によって、ボッティチェッリの作品であると広く認められています。2021年1月には、ニューヨークのサザビーズでオークションにかけられ、9220万ドル以上という驚異的な価格で落札されました。この価格は、オークションハウスで売却されたオールドマスターの絵画としては、過去最高額を記録しました。

この作品は、ルネサンス期のフィレンツェにおける芸術と文化を象徴する重要な作品として、その価値をますます高めています。その精緻な描写、歴史的背景、そして高貴な美しさは、時を超えて人々の心を魅了し続けています。

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