ラックガム＝ソアイムットの戦い

ラックガム＝ソアイムットの戦い

1785年、ベトナム南部で繰り広げられたラックガム＝ソアイムットの戦いは、西山（タイソン）軍とシャム軍との間で勃発した重要な戦いです。この戦いは、ベトナム国内の権力闘争と、周辺国シャムの介入が複雑に絡み合った結果として起こりました。

戦いの背景

18世紀のベトナムでは、後黎朝の皇帝が名目的な存在となり、実質的な権力は北部の鄭氏と南部の阮氏がそれぞれ掌握していました。鄭氏は北河国（交趾国）、阮氏は広南国を支配し、分裂状態が続いていました。1771年、西山で阮氏三兄弟が蜂起し、広南阮氏を滅亡へと追いやっていきます。この勢力は西山阮氏と呼ばれ、その後のベトナム史を大きく動かすことになります。

1777年、西山軍の攻勢により、広南阮氏の阮福映は嘉定（現在のホーチミン市）から追放されました。阮福映は再起を期して1782年にシャム（タイ）のラーマ1世に助けを求め、シャム軍の支援を受けることになりました。1784年半ば、シャム軍は嘉定に侵攻を開始し、2万の水軍がラックザーに上陸、3万の歩兵軍がカンボジアを経由してカントーに進軍しました。しかし、シャム軍は占領地で放火や略奪を繰り返したため、住民の反感を買いました。

戦いの経緯

1785年1月、西山朝の阮恵は、兄である泰徳帝から反撃の命を受け、大本営をミトーに置きました。そして、前江（メコン川）の主要水路であるラックガム（瀝涔）からソアイムット（𣒱𡃙）までを、決戦の地として選びました。この地域は全長約6km、川幅が1～2kmで、ココヤシの木々が生い茂り、伏兵を配置するのに適していました。また、干満の差によって水位が大きく変動するという特徴も持っていました。

シャム軍は前江の約30kmにわたって防衛線を敷きましたが、阮恵は総力戦を避け、囮を使って敵を誘い込む戦法を採用しました。阮恵は、シャム軍の総司令官であるクロムルアン・テファリラックに豪華な品物を贈り、単独講和を提案することで、阮福映とシャム軍を離間させようとしました。しかし、テファリラックはこれを謀略と疑い、逆に阮福映と共謀して西山軍への奇襲攻撃を計画しました。

阮恵はわざとのんびりとした行動でテファリラックを油断させ、引き潮に乗って進撃してきたシャム軍を、慌てたふりをしながら撤退させました。追撃してきたシャム軍を待ち構えていたのは、ラックガム、ソアイムット、そして泰山島からの西山軍の一斉砲撃でした。1月19日の明け方、満潮に変わると同時に、潮の流れに乗った西山軍が突撃を開始しました。シャム軍の軍船は上流で待ち構えていた砲兵にも打ち負かされ、多くが撃沈または炎上し、残った兵は陸路で本国へ逃げ帰るという惨敗を喫しました。

戦いの結果と影響

この戦いで、かろうじて生き残った阮福映はシャムに逃亡し、再起の機会をうかがうことになります。その後、西山朝の内部混乱に乗じて、毎年東南の風が吹く季節になると水軍を派遣したと伝えられています。

ラックガム＝ソアイムットの戦いは、西山朝の勢力を決定づける重要な戦いとなりました。西山軍は、地形を巧みに利用した戦略と、シャム軍の慢心を突く戦術で勝利を収め、ベトナム国内での支配を確固たるものとしたのです。この戦いの後、阮恵はさらに勢力を拡大し、後にベトナムを統一することになります。

参考文献

小倉貞男『物語 ヴェトナムの歴史 一億人国家のダイナミズム』〈中公新書〉1997年
ファン・ゴク・リエン監修『ベトナムの歴史 ベトナム中学校歴史教科書』明石書店、2008年

関連項目

ドンダーの戦い
コーチェン川 - 敗走した阮福映にちなんでつけられたという説がある。

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