ラッセロサウルス
ラッセロサウルス（Russellosaurus coheni）は、約9200万年前の中期チューロニアン前期に、現在の北米大陸に生息していたモササウルス科の絶滅した爬虫類です。アメリカ合衆国テキサス州ダラス周辺の地層から発見された化石に基づいて命名されました。
1992年、ダラス古生物協会のマーク・コーヘンによって、テキサス州北部中央部の中部チューロニアン階下部から頭骨化石が発見されました。化石は、カンプ・ランチ石灰岩層の上に堆積したアルカディア・パーク頁岩から産出しました。頭骨は良好な状態で保存されていましたが、頭骨より後方の骨格は発見されていません。属名の「ラッセロサウルス」は、モササウルス科の形態と系統に関する研究に貢献した古生物学者デイル・ラッセルに、種小名の「コヘニ」は、化石の発見者であるマーク・コーヘンに献名されました。
ラッセロサウルスは、小型で華奢な頭骨を持つのが特徴です。前頭骨は細長く、長さと幅の比率が8:5となっています。上顎骨と歯骨にはそれぞれ16本の歯が並んでいます。前上顎骨の後端は広く鈍く、上から見ると前上顎骨と上顎骨の縫合線は斜めに走ります。外翼状骨は華奢で長方形に近く、小さな翼状骨突起と細長い頬骨突起から構成されています。前頭骨の凹みは外鼻孔によって形成されています。基後頭骨の底には薄い中央隔壁があり、頭蓋底動脈の入り口が分割されています。また、基後頭骨の腹側表面には、動脈の出口となる多数の小さな穴があります。基蝶形骨の翼状突起は下方へ大きく伸びており、後眼窩前頭突起は華奢な構造です。松果腺孔は頭頂部の三角形の平坦な中央に位置しています。上後頭骨と頭頂骨の結合部は軟骨でできており、頭頂縁の中央にはV字型の窪みが存在します。
ラッセロサウルスは、頭頂部の平坦部が三角形であること、頭蓋底動脈が基後頭骨の底に進入すること、後眼窩前頭突起の側方に大きな孔が開いていることなどから、プリオプラテカルプス亜科と近縁であると考えられています。しかし、頭蓋底動脈が二つの小さな孔を通って入り、基後頭骨から腹側に出る特徴は、派生的なプリオプラテカルプス亜科とは異なります。さらに、前頭骨が狭い、歯の本数が多い、四肢が海洋生活に適応しきっていないプレシオペダルであるなど、基盤的なモササウルス科の特徴も多く備えています。
2005年の系統解析では、ラッセロサウルス・コヘニは、ヤグアラサウルス・コロンビアヌス、テティサウルス・ノプクサイとともに、ティロサウルス亜科とプリオプラテカルプス亜科を含む分類群の姉妹群、すなわち「ラッセロサウルス類」に位置付けられました。この結果は、1997年のベルによる系統解析を支持しています。ラッセロサウルス類とプリオプラテカルプス亜科・ティロサウルス亜科を合わせたグループは、アイギアロサウルス類とハリサウルスを合わせたグループの姉妹群であり、この両グループにハアシアサウルスを加えたグループは、モササウルス亜科の姉妹群です。これらの関係から、クリダステス型の祖先がモササウルス亜科に、プラテカルプス型の祖先がティロサウルス亜科とプリオプラテカルプス亜科の系統に繋がったと考えられます。
最も近縁とされるヤグアラサウルス・コロンビアヌスは、ラッセロサウルスよりも大型ですが、ラッセロサウルスのホロタイプ標本が亜成体のものである可能性も考慮されています。しかし、ヤグアラサウルスと比較して、ラッセロサウルスは上顎骨歯と歯骨歯の本数が多く、前上顎骨がより鈍い形状をしていること、松果腺孔の位置が異なることなどから、別属別種であることが示されています。
南メソジスト大学所蔵のラッセロサウルスのレプリカ標本が、北海道むかわ町の穂別博物館との交換により日本に来日し、2016年の特別展「モササウルス展」で国内初公開されました。
参考文献
Michael J Polcyn; G.L. Bell Jr (2005). “Russellosaurus coheni n. gen., n. sp., a 92 million-year-old mosasaur from Texas (USA), and the definition of the parafamily Russellosaurina”. Netherlands Journal of Geosciences 84 (3): 321-333. doi:10.1017/S0016774600021107. https://doi.org/10.1017/S0016774600021107.
発見と命名
1992年、ダラス古生物協会のマーク・コーヘンによって、テキサス州北部中央部の中部チューロニアン階下部から頭骨化石が発見されました。化石は、カンプ・ランチ石灰岩層の上に堆積したアルカディア・パーク頁岩から産出しました。頭骨は良好な状態で保存されていましたが、頭骨より後方の骨格は発見されていません。属名の「ラッセロサウルス」は、モササウルス科の形態と系統に関する研究に貢献した古生物学者デイル・ラッセルに、種小名の「コヘニ」は、化石の発見者であるマーク・コーヘンに献名されました。
形態
ラッセロサウルスは、小型で華奢な頭骨を持つのが特徴です。前頭骨は細長く、長さと幅の比率が8:5となっています。上顎骨と歯骨にはそれぞれ16本の歯が並んでいます。前上顎骨の後端は広く鈍く、上から見ると前上顎骨と上顎骨の縫合線は斜めに走ります。外翼状骨は華奢で長方形に近く、小さな翼状骨突起と細長い頬骨突起から構成されています。前頭骨の凹みは外鼻孔によって形成されています。基後頭骨の底には薄い中央隔壁があり、頭蓋底動脈の入り口が分割されています。また、基後頭骨の腹側表面には、動脈の出口となる多数の小さな穴があります。基蝶形骨の翼状突起は下方へ大きく伸びており、後眼窩前頭突起は華奢な構造です。松果腺孔は頭頂部の三角形の平坦な中央に位置しています。上後頭骨と頭頂骨の結合部は軟骨でできており、頭頂縁の中央にはV字型の窪みが存在します。
系統
ラッセロサウルスは、頭頂部の平坦部が三角形であること、頭蓋底動脈が基後頭骨の底に進入すること、後眼窩前頭突起の側方に大きな孔が開いていることなどから、プリオプラテカルプス亜科と近縁であると考えられています。しかし、頭蓋底動脈が二つの小さな孔を通って入り、基後頭骨から腹側に出る特徴は、派生的なプリオプラテカルプス亜科とは異なります。さらに、前頭骨が狭い、歯の本数が多い、四肢が海洋生活に適応しきっていないプレシオペダルであるなど、基盤的なモササウルス科の特徴も多く備えています。
2005年の系統解析では、ラッセロサウルス・コヘニは、ヤグアラサウルス・コロンビアヌス、テティサウルス・ノプクサイとともに、ティロサウルス亜科とプリオプラテカルプス亜科を含む分類群の姉妹群、すなわち「ラッセロサウルス類」に位置付けられました。この結果は、1997年のベルによる系統解析を支持しています。ラッセロサウルス類とプリオプラテカルプス亜科・ティロサウルス亜科を合わせたグループは、アイギアロサウルス類とハリサウルスを合わせたグループの姉妹群であり、この両グループにハアシアサウルスを加えたグループは、モササウルス亜科の姉妹群です。これらの関係から、クリダステス型の祖先がモササウルス亜科に、プラテカルプス型の祖先がティロサウルス亜科とプリオプラテカルプス亜科の系統に繋がったと考えられます。
最も近縁とされるヤグアラサウルス・コロンビアヌスは、ラッセロサウルスよりも大型ですが、ラッセロサウルスのホロタイプ標本が亜成体のものである可能性も考慮されています。しかし、ヤグアラサウルスと比較して、ラッセロサウルスは上顎骨歯と歯骨歯の本数が多く、前上顎骨がより鈍い形状をしていること、松果腺孔の位置が異なることなどから、別属別種であることが示されています。
日本において
南メソジスト大学所蔵のラッセロサウルスのレプリカ標本が、北海道むかわ町の穂別博物館との交換により日本に来日し、2016年の特別展「モササウルス展」で国内初公開されました。
出典
参考文献
Michael J Polcyn; G.L. Bell Jr (2005). “Russellosaurus coheni n. gen., n. sp., a 92 million-year-old mosasaur from Texas (USA), and the definition of the parafamily Russellosaurina”. Netherlands Journal of Geosciences 84 (3): 321-333. doi:10.1017/S0016774600021107. https://doi.org/10.1017/S0016774600021107.
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