ラドミル・エリシュカ

ラドミル・エリシュカ

ラドミル・エリシュカ（Radomil Eliška、1931年4月6日 - 2019年9月1日）は、チェコを代表する指揮者の一人です。彼は、その音楽に対する真摯な姿勢と、作品の本質を深く捉えた解釈で、多くの聴衆を魅了しました。特に、ドヴォルザークやヤナーチェクといったチェコを代表する作曲家の作品の演奏においては、本場ならではの深い理解と共感が感じられました。

生涯

エリシュカは、チェコの北東部、ズデーテン地方で生まれました。幼少期からヴァイオリンを学び、音楽の才能を開花させました。その後、ブルノ音楽大学に進学し、ヤナーチェクの高弟であるブルジェティスラフ・バカラに師事し、指揮者としての基礎を築きました。大学卒業後は、チェコの様々なオーケストラや軍楽隊で指揮を執り、経験を積みました。

1968年、カルロヴィ・ヴァリ交響楽団の首席指揮者選考コンクールで優勝し、翌年から同楽団の首席指揮者兼音楽監督に就任しました。在任中には、チェコ・フィルハーモニー管弦楽団やプラハ交響楽団などにも客演し、プラハの春音楽祭にも度々出演しました。しかし、1989年のビロード革命後、チェコ国内のオーケストラでチェコ人指揮者が解任される状況の中、1990年にカルロヴィ・ヴァリ交響楽団のポストを辞任しました。

1978年からはプラハ芸術アカデミーで教鞭を執り、1996年から2008年まで指揮科教授を務めました。この間、若き日のヤクブ・フルシャを指導するなど、後進の育成にも尽力しました。また、2001年から2013年までチェコ・ドヴォルザーク協会の会長を務め、チェコ音楽の普及にも貢献しました。

東西冷戦時代、エリシュカは西側での活動が制限され、その名が広く知られることはありませんでした。しかし、このことが逆に、奇抜さや技巧が重視される現代の風潮とは異なる、素朴で伝統的な解釈を追求する姿勢を育みました。エリシュカの指揮は、まさにチェコ音楽の本質を体現するものでした。

日本での活動

エリシュカが日本で知られるようになったのは、2004年の初来日以降のことです。東京フィルハーモニー交響楽団や名古屋フィルハーモニー交響楽団を皮切りに、札幌交響楽団、大阪センチュリー交響楽団、東京都交響楽団、大阪フィルハーモニー交響楽団、NHK交響楽団、九州交響楽団など、日本の主要オーケストラと積極的に共演しました。その実力は、「遅れてきた巨匠」として、日本の音楽ファンから熱い注目を集めました。

特に、札幌交響楽団との関係は特別なものでした。2008年から同楽団の首席客演指揮者を務め、2015年からは名誉指揮者となりました。ドヴォルザーク、ヤナーチェク、ブラームス、チャイコフスキーのチクルスに取り組み、数多くの録音を残しました。また、大阪フィルハーモニー交響楽団ともドヴォルザークの「スターバト・マーテル」を録音するなど、数多くの名演を繰り広げました。

2009年には、NHK交響楽団との共演でスメタナの「わが祖国」全曲を指揮し、「心に残ったN響コンサート コンサート編」で第1位に選出されました。2017年10月、健康上の理由から札幌交響楽団と大阪フィルハーモニー交響楽団への出演を最後に、惜しまれつつ来日公演を終えました。この最後の来日公演では、大阪フィルハーモニー交響楽団とはオール・ドヴォルザーク・プログラムを、札幌交響楽団とはリムスキー＝コルサコフの「シェエラザード」を演奏し、聴衆を魅了しました。

エリシュカと札幌交響楽団の長年の功績は、2017年度第30回ミュージック・ペンクラブ音楽賞特別賞を受賞しました。また、生誕90年となる2021年には、チェコのラジオ局が特集番組を放送し、札幌交響楽団はエリシュカの首像を製作しました。

ディスコグラフィ

エリシュカは、数多くの録音を残しています。以下はその一部です。

ドヴォルザーク：交響曲第6番、ヤナーチェク：狂詩曲「タラス・ブーリバ」（札幌交響楽団）（2008年録音）
ドヴォルザーク：交響曲第7番、ヤナーチェク：組曲「利口な女狐の物語」（札幌交響楽団）（2009年録音）
スメタナ：連作交響詩「わが祖国」（全曲）（札幌交響楽団）（2009年録音）
ドヴォルザーク：交響曲第5番、ヤナーチェク：シンフォニエッタ（札幌交響楽団）（2010年録音）
ドヴォルザーク：交響曲第9番「新世界より」、交響詩「野鳩」（札幌交響楽団）（2012年録音）
ドヴォルザーク：交響曲第8番、交響詩「水の精」、序曲「自然の王国で」（札幌交響楽団）（2013年録音）
ドヴォルザーク：交響曲第9番「新世界より」、ヤナーチェク：シンフォニエッタ、序曲「謝肉祭」(ドヴォルザーク)（東京佼成ウインドオーケストラ）（2013年録音）
ブラームス:交響曲第3番、ドヴォルザーク:チェロ協奏曲（独奏：石川祐支）（札幌交響楽団）(2013年録音）
チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」、ヴォジーシェク:交響曲ニ長調（札幌交響楽団）（2014年録音）
ブラームス:交響曲第2番、モーツァルト：交響曲第38番、ウェーバー：歌劇「魔弾の射手」序曲（札幌交響楽団）(2014年録音）
ブラームス:交響曲第4番、ベートーヴェン：交響曲第4番（札幌交響楽団）(2015年録音）
ドヴォルザーク：スターバト・マーテル（大阪フィルハーモニー交響楽団）(2015年録音)
チャイコフスキー：交響曲第4番、ドヴォルザーク：弦楽セレナーデ（札幌交響楽団）(2016年録音)
チャイコフスキー：交響曲第5番、ドヴォルザーク：スケルツォ・カプリチオーソ 、スメタナ：交響詩「ワレンシュタインの陣営」（札幌交響楽団）(2016年録音)
ブラームス:交響曲第1番、シューベルト：交響曲第5番、メンデルスゾーン：序曲「フィンガルの洞窟」（札幌交響楽団）（2017年録音）
ブラームス:交響曲全集（第1番・第2番・第3番・第4番）（札幌交響楽団）（2013～17年録音）
リムスキー＝コルサコフ：交響組曲「シェエラザード」、スメタナ:歌劇「売られた花嫁」序曲、ドヴォルザーク：チェコ組曲 他（札幌交響楽団）（2017年録音）
「ザ・フェアウェエルコンサート・イン・札幌」（Blu-ray Disc）（札幌交響楽団）（2017年、最後の来日公演）


ラドミル・エリシュカは、その音楽への情熱と、作品に対する深い理解を通して、聴衆に感動を与え続けました。彼の遺した音楽は、これからも長く愛され続けることでしょう。

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