ラビカナ街道のアウグストゥス

「ラビカナ街道のアウグストゥス」と称されるこの彫像は、ローマ帝国の初代皇帝であるアウグストゥス（在位：紀元前27年 - 紀元14年）をモデルとして制作された大理石製の肖像彫刻です。現在は、イタリアのローマ国立博物館、特にテルメ館（Palazzo Massimo alle Terme）に所蔵され、一般に公開されています。

特徴と表現

この像の最も際立った特徴は、アウグストゥスがローマの伝統的な宗教における最高位の聖職者である最高神祇官（ポンティフェクス・マクシムス）としての姿で表現されている点にあります。彼はトーガ（ローマ市民が着用する布）を身にまとい、そのトーガで頭部を深く覆っています。この頭を覆うポーズは、「カピテ・ウェラート（Capite Velato）」と呼ばれ、神事を行う際や、特に犠牲者を悼むような敬虔な状況で見られる伝統的な仕草です。数多くの皇帝像が制作されたアウグストゥスの生涯においても、最高神祇官としての姿をこれほど明確に捉えた例は多くなく、この像に特別な意義を与えています。

歴史と発見

彫像が制作されたのは、記録によれば紀元前12年以降と考えられています。これは、前任者であったマルクス・アエミリウス・レピドゥスが死去し、アウグストゥスが最高神祇官の地位に就任した年以降にあたります。アウグストゥスはすでにローマの政治的・軍事的権力を掌握していましたが、この就任により宗教的な権威もその手中に収めることになりました。本像は、こうした権力集中の完成を示す時期に制作されたと言えます。

この像が現代に再び姿を現したのは、比較的新しい1910年のことでした。ローマ市内のラビカナ街道沿い、オッピオの丘の斜面で行われた発掘調査中に偶然発見されました。発見された場所の名前から「ラビカナ街道のアウグストゥス」と呼ばれるようになりました。

像が語るアウグストゥスの一面

共和政から帝政へと移行する激動の時代を生き抜いたアウグストゥスは、政治家、軍事指導者として類まれな手腕を発揮しましたが、この像は彼のもう一つの重要な側面、すなわちローマ世界の宗教的指導者としての顔を強調しています。最高神祇官の地位は、単なる名誉職ではなく、ローマの伝統的な信仰体系と国家の安定を結びつける上で極めて重要な役割を果たしました。アウグストゥスは、自らの権威を確立し維持するために、伝統的な宗教の復興にも力を注ぎました。

アウグストゥス自身がその業績を記した『神君アウグストゥスの業績録（Res Gestae Divi Augusti）』の中で、彼は自身の宗教的貢献について言及しています。特に第19節から第21節では、都市ローマに対して行った多くの事業を列挙しており、劇場や水道といった公共インフラの整備と並んで、数多くの神域や神殿を建設あるいは修復したことを誇らしげに記しています。これは、彼が政治的な安定と同様に、伝統的な神々への崇拝を重視していたことを示しており、このラビカナ街道の像が彼の宗教的権威を視覚的に表現していることと符合します。

芸術様式

アウグストゥス帝政期に制作された彫刻の様式は、その前の共和政期と比較して、より規範化され、いくつかの明確な区分に分けられることが特徴です。このラビカナ街道の像も、その髪型や顔の造作に見られる特徴から、皇帝像の代表作として知られる「プリマポルタのアウグストゥス」像などに見られる特定の様式群に分類されることがあります。

共和政期のローマ美術では、個人の特徴を写実的に、時に厳しく表現する肖像彫刻が主流でした。これに対し、アウグストゥス時代の肖像彫刻は、しばしば理想化されたギリシャ古典期の様式を取り入れ、皇帝をより若々しく、威厳のある姿で表現する傾向がありました。このラビカナ街道の像も、アウグストゥスが実際の年齢よりも若く、理想化された美しさを持って表現されている点で、他の多くの皇帝肖像と共通しています。これは、単なる個人の肖像としてではなく、国家の象徴としての皇帝の姿を表現しようとする意図があったと考えられます。

このように、「ラビカナ街道のアウグストゥス」像は、単なる皇帝の肖像としてだけでなく、アウグストゥスが政治的権力に加えて宗教的権威をも掌握し、ローマの伝統的な宗教の復興をも図ったその多面的な役割を理解する上で、極めて貴重な視覚的資料と言えるでしょう。

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