最高神祇官

最高神祇官（ポンティフェクス・マクシムス）とは

最高神祇官、またはポンティフェクス・マクシムスは、古代ローマにおいて全ての神官を統括する、宗教的に最も重要な地位でした。神官団の長として、儀式や祭祀を執り行い、暦を管理する役割を担っていました。任期は終身制であり、他の官職との兼任も可能でした。

起源と役割

伝説によれば、王政ローマの二代目であるヌマ・ポンピリウス王が、王が不在の場合でも儀式を滞りなく行うために、常任の神官やウェスタの処女などを設けたとされています。さらに、全ての儀式の詳細な手順や費用を管理し、葬儀や鎮魂の方法を教示する職として神祇官が定められました。この神祇官の長が最高神祇官です。

最高神祇官は、宗教的権威を司るだけでなく、ローマの政治にも大きな影響力を持っていました。選挙によって選ばれますが、その地位は終身制であり、フォルム・ロマヌムにあった公邸を与えられ、イタリア本土から出ることは禁じられていました。

プレブス（平民）の就任

紀元前300年のオグルニウス法により、平民も神祇官に就任できるようになりました。そして、紀元前254年には、初の平民出身の最高神祇官が誕生しました。これは、ローマ社会における身分制度の変化を示す出来事でした。

最高神祇官と政治権力

ガイウス・ユリウス・カエサルは、自身の政治的な成功のために、最高神祇官の権威を利用しようとしました。多額の資金を投じて買収を行い、異例の若さで最高神祇官に就任しました。この例からも分かるように、最高神祇官の地位は政治的な権力とも密接に結びついていました。

カエサルの後を継いだアウグストゥスもまた、最高神祇官の地位を利用して、自らの権威を確立しました。アウグストゥス以降のローマ皇帝は、この地位を兼任することを常としました。しかし、キリスト教が公認されるようになると、皇帝は最高神祇官への就任を拒むようになり、その地位は西方教会の総主教（ローマ教皇）へと移り変わっていきました。

中世以降、「ポンティフェクス・マクシムス」という言葉は、西方教会の総主教、つまりローマ教皇の称号の一つとして定着しました。

共和政ローマの最高神祇官一覧

以下に、共和政ローマ時代の最高神祇官の一部を列挙します。

紀元前509年：ガイウス・パピリウス
紀元前449年：クィントゥス・フリウス
紀元前431年：アウルス・コルネリウス
紀元前420年：スプリウス・ミヌキウス
紀元前390年：マルクス・フォリウス
紀元前332年：プブリウス・コルネリウス・カルッサ
紀元前304年：？・コルネリウス・バルバトゥス
紀元前254年：ティベリウス・コルンカニウス（初の平民出身最高神祇官）
紀元前243年：ルキウス・カエキリウス・メテッルス
紀元前221年：ルキウス・コルネリウス・レントゥルス・カウディヌス
紀元前213年：プブリウス・リキニウス・クラッスス・ディウェス
紀元前183年：ガイウス・セルウィリウス・ゲミヌス
紀元前180年：マルクス・アエミリウス・レピドゥス
紀元前150年：プブリウス・コルネリウス・スキピオ・ナシカ・コルクルム
紀元前141年：プブリウス・コルネリウス・スキピオ・ナシカ・セラピオ
紀元前132年：プブリウス・リキニウス・クラッスス・ディウェス・ムキアヌス
紀元前130年：プブリウス・ムキウス・スカエウォラ
紀元前115年：ルキウス・カエキリウス・メテッルス・ダルマティクス
紀元前103年：グナエウス・ドミティウス・アヘノバルブス
紀元前89年：クィントゥス・ムキウス・スカエウォラ
紀元前81年：クィントゥス・カエキリウス・メテッルス・ピウス
紀元前63年：ガイウス・ユリウス・カエサル
* 紀元前44年：マルクス・アエミリウス・レピドゥス


最高神祇官は、古代ローマの宗教と政治において重要な役割を果たした官職であり、その影響は、後のローマ教皇の称号にまで及んでいます。

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