ラビカナ街道

ラビカナ街道（Via Labicana）は、古代ローマ時代に建設された主要街道の一つであり、イタリアの中心都市ローマから東南東方向へ伸びていました。その道のりは、当初トゥスクルムまででしたが、後にLabici（現在のモンテ・コンパトリ近郊にあたると考えられています）まで延伸されたとされています。

ローマから南東方面へ向かう古代街道としては、他にラティーナ街道が存在しました。両街道は特定の地点（当時はAd BiviumやCompitum Anagninumと呼ばれた場所）で合流するまでの経路がほぼ等しい長さを有していました。しかし、ラビカナ街道はアルギドゥス山を迂回して敷設されていたため、ラティーナ街道と比較して地形の高低差が少なく、そのため交通の便が良く、ラティーナ街道よりも頻繁に利用された可能性が指摘されています。興味深いことに、この合流点以降は、たとえラビカナ街道をたどってきた旅行者であっても、その道はラティーナ街道と称されるようになりました。

ラビカナ街道を利用してローマ市内へ入る場合、その時代によって異なる都市の防壁を通過する必要がありました。比較的新しいアウレリアヌス城壁の時代には、現在のマッジョーレ門として知られるプラエネスティーナ門が主要な入口でした。より古い時代に建造されたセルウィウス城壁の時代には、エスクイリーナ門を通じて市街地に入りました。特にエスクイリーナ門は、後にローマ皇帝ガッリエヌスによって美しいアーチで装飾が施されたことが知られています。

現代において、ローマ市に近い部分のラビカナ街道の経路は、カシリーナ通りという名称で呼ばれています。ローマを出発して最初の約6マイル（約9.6キロメートル）にわたる区間は、現在、これに対応する現代の道路は存在しません。しかし、古代の舗装路面や、街道の両脇に残る建物などの遺構が比較的良好な状態で残っているため、そのかつての経路を比較的容易に追跡することが可能です。

この街道沿いには、初代ローマ皇帝アウグストゥスの妻であるリウィア・ドルシッラのヴィッラの遺跡が存在しました。この遺跡から、最高神祇官（ポンティフェクス・マクシムス）の姿をしたアウグストゥスの有名な肖像彫刻が出土しています。この像は『ラビカナ街道のアウグストゥス』として広く知られており、その写実的な表現と宗教的な権威を示す姿が特徴です。現在はローマ国立博物館に所蔵され、重要な展示物の一つとなっています。

また、西暦193年に皇帝に即位するも短期間で処刑されたローマ皇帝ディディウス・ユリアヌスは、その死後、ラビカナ街道のローマから5番目のマイルストーン（ローマ・マイルストーン）の地点に埋葬されたという歴史的な記録が残っています。

ラビカナ街道は、単なる交通路としてだけでなく、沿道に歴史的な建造物や記念碑が存在し、重要な人物の埋葬地ともなったことから、古代ローマの社会や文化を知る上でも貴重な史跡となっています。その一部は現代の道路にその名を残し、また一部は遺構として往時の姿を伝えています。

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