ラブソングス (岡林信康のアルバム)

ラブソングス

『ラブソングス』は、日本のシンガーソングライター、岡林信康が1977年4月25日に日本コロムビアからリリースしたスタジオ・アルバムです。

解説

前作にあたる演歌的なアプローチのアルバム『うつし絵』とは対極に位置する作品として制作されました。本作において岡林信康は、フォークミュージックの手法を基盤に、自身の内面や個人的な体験を率直に描き出す「私小説」のようなリアルな歌世界を追求しています。この方向転換は、当時の音楽シーンにおいて大きな注目を集めました。

発売されるや否や、音楽評論家やメディアから高い評価を獲得しました。特に、辛口の批評で知られていた音楽雑誌「ニューミュージック・マガジン」の編集長、中村とうようが、誌面上で本作に100点満点を与えたことは極めて異例であり、大きな話題となりました。中村とうようは、「アコースティックの弾き語りにこれだけエネルギーを使って立ち向かったのは初めてだ」とその挑戦的な姿勢と完成度を絶賛しています。また、音楽ライターの田口史人も、岡林信康の数ある作品の中でも本作を代表作として挙げており、『ラブソングス』が単なる一作としてではなく、岡林のキャリアにおける最重要作品の一つとして位置づけられていることが分かります。

構成と収録曲

アルバムは、アコースティック・サウンドが中心のA面（Side A）と、よりバンド・サウンドを取り入れたB面（Side B）という対照的な構成となっています。全曲の作詞・作曲を岡林信康自身が手がけており、彼のソングライターとしての力量が存分に発揮されています。

Side A（アコースティック・サウンド）

アコースティックギターを基調とした静謐かつ力強いサウンドで、岡林の内面世界が深く掘り下げられています。

Mr.Oのバラッド（7:27）
自身の山谷での体験や、高石友也の歌との出会い、そして自身が歌手になるまでの道のりを克明に綴った、このアルバムを象徴する長尺の楽曲です。
みのり（5:54）
実の娘である「みのり」への想いを歌った、温かくも切ない一曲です。
からっぽの唄（アルバム・バージョン）（5:24）
シングルとしても発表された楽曲の、アルバムに合わせたバージョンです。
五年ぶり（6:07）
かつて愛した女性との偶然の再会を描いた、物語性のある楽曲です。

Side B（バンド・サウンド）

バンド編成によるダイナミックな演奏が加わり、楽曲に広がりと深みを与えています。

ラブソング（7:22）
アルバムのタイトルを冠した楽曲です。
カボチャ音頭（3:25）
男30のブルースよ（3:02）
ベイビー（4:35）
花火（7:42）
娘の「みのり」と、息子の「大介」という二人の子供への愛情を歌った、感動的な楽曲です。

レコーディング・メンバー

本作には、当時の日本の音楽シーンを代表する腕利きのミュージシャンたちが多数参加しています。これは、岡林信康の音楽的な探求心と、彼が持つ人脈の広さを示すものでもあります。

岡林信康: 唄、ギター、ハーモニカ
中川イサト: ギター、オルガン、ドブロ
河合徹三: ベース、エレキギター (ラストショウ)
島村英二: ドラム (ラストショウ)
鈴木慶一とムーンライダース: 鈴木慶一、岡田徹、鈴木博文、椎名和夫、武川雅寛、橿渕哲郎など
ダウン・タウン・ブギウギ・バンド: 宇崎竜童、新井武士、鈴木洋幸、千野秀一、和田静男など
その他、白瀬社中、吉岡治とクレージー・ツアー、ウィルビーズなどがクレジットされています。

コーラス・アレンジは栗田俊夫が担当しました。

スタッフ

制作は中村一好、録音は三尾喜夫が担当しました。アルバムのアートワークにおいては、イラストを黒田征太郎が手がけ、ジャケットデザインを土屋直久が担当するなど、当時の第一線で活躍するクリエイターが集結しています。

再発とボーナス・トラック

2008年にリリースされた紙ジャケット仕様の再発盤には、オリジナルには未収録だった「からっぽの唄」のシングル・バージョンがボーナス・トラックとして追加収録されており、ファンにとっては嬉しい内容となっています。

まとめ

『ラブソングス』は、岡林信康がフォークシンガーとしての原点に立ち返りつつ、自身の人生経験や感情を赤裸々に歌い上げた、まさに「魂の叫び」とも言える作品です。その文学性の高さ、音楽的な深み、そして当時の音楽シーンにおける位置づけから見ても、日本のフォーク／ロック史を語る上で欠かせない、時代を超えて輝き続ける名盤と言えるでしょう。

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