ラリー・ドイチュラント

ラリー・ドイチュラント：ドイツのワイン街道と軍事演習地が織りなすWRCの難関

ラリー・ドイチュラントは、世界ラリー選手権（WRC）の伝統的な一戦として知られています。ドイツ語表記では「Rallye Deutschland」で、日本語では「ラリー・ドイツ」や「ラリー・ジャーマニー」と呼ばれることも多く、メディアによっては「ラリー・ドイチェラント」という表記も見られます。

1982年にドイツラリー選手権として初開催され、2002年からはWRCの舞台となりました。開催地はドイツの西南部、フランスおよびルクセンブルクと国境を接する地域です。2016年までは古都トリーアが中心地として機能し、スタート・フィニッシュやスーパーSS（スーパー スペシャルステージ）は、世界遺産にも登録されているポルタ・ニグラ周辺で行われていました。しかし、2017年からはサービスパークがトリーアから約60km離れたボスタールゼー（ボスタール湖）に移転しています。

このラリーの特徴は、多様な路面にあります。基本的にはターマック（舗装路）ですが、複数のラリーを統合して誕生した歴史を持つため、エリアによって舗装の特性が大きく異なるのです。

特に有名なのは、ドイツワインの産地として知られるモーゼル河畔のステージです。急勾配のブドウ畑を縫うように走る、狭く曲がりくねった農道は、ドライバーの技術を極限まで試します。ヘアピンコーナーが多く、サイドブレーキを駆使した繊細な操作が求められます。

さらに、バウムホルダー軍事演習地内にある「パンツァープラッテ」は、非常に危険なステージとして知られています。荒れたコンクリート路面は滑りやすく、戦車の脱輪防止のために路肩に埋め込まれた「竜の歯」（ヒンケルシュタイネ）と呼ばれる障害物がコースに存在します。この竜の歯に接触すると、車両に深刻なダメージを与えてしまうのです。2004年にはペター・ソルベルグ選手がここで竜の歯に接触し、大クラッシュを起こしています。コ・ドライバーのフィル・ミルズ選手側のピラーが全て曲がるほどの衝撃で、車は大きく損傷しました。

一方、森林や野原を走る高速ステージでは、フラットな路面が続きます。しかし、所々に干し草の俵が置かれたシケインが設置されており、ドライバーはそれらを巧みに回避しながら走行しなければなりません。

そして、このラリーをさらに難しくしているのが気象条件です。イベント期間中は天候が非常に不安定で、雨が降ると路面状況は大きく変化し、難易度は格段に上がります。そのため、単にスピードを追求するだけでなく、路面状況を的確に読み取り、冷静で正確なドライビング技術が不可欠なのです。

WRCに昇格して以降、多くの名ドライバーたちがラリー・ドイチュラントに挑戦してきました。中でも、セバスチャン・ローブ選手は、2002年にここでWRC初優勝を飾って以来、このラリーで高い勝率を誇り、まさにこのラリーを制覇してきた名ドライバーの一人と言えるでしょう。複雑な路面状況、気候、そして危険なセクションを克服してきた彼のドライビングスキルは、多くのラリーファンを魅了し続けています。ラリー・ドイチュラントは、まさにドライバーの総合力が問われる、WRCの中でも特に挑戦的なラリーと言えるでしょう。

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