ラヴァーズ・ロック

ラヴァーズ・ロック (Lovers Rock) とは

ラヴァーズ・ロックは、レゲエから派生した音楽のサブジャンルであり、その名が示す通り、恋愛やロマンスを主なテーマとしています。甘く、メロウで、ロマンチックな質感が特徴的なサウンドスケープを創り上げています。1970年代中期、多様な音楽文化が交錯するロンドンで誕生しました。

歴史

ラヴァーズ・ロックのルーツは、1960年代後半から1970年代初頭にかけて、ケン・ブース、アルトン・エリス、ジョニー・ナッシュ、ジョン・ホルトといったアーティストたちが国際的なヒットを飛ばした、ロックステディや初期レゲエのラブソングに遡ります。

1970年代に入ると、ジャマイカ本国ではラスタファリ運動が隆盛を極め、社会的なメッセージ性の強いプロテストソングが主流となっていきました。その結果、ラブソングを中心とする音楽スタイルは一時的に衰退し、その流れはイギリスへと渡り、カリブ海からの移民たちの間で独自の発展を遂げることになります。

それは、レゲエ特有のベースラインとリズムに、シカゴ・ソウルやフィリー・ソウルの持つ滑らかなサウンドの感覚を融合させた、洗練された音楽スタイルでした。

ラヴァーズ・ロックの最初の楽曲として一般的に認識されているのは、1975年にルイーザ・マークが14歳の時に発表した、ロバート・パーカーの「I Caught You In A Lie」のカバーです。その他、ジンジャー・ウィリアムスの「Tenderness」、T・T・ロスの「Last Date」なども初期の重要な楽曲として知られています。また、同時期にロンドンの音楽プロデューサー、デニス・ハリスは新しいジャンルの名を冠したレーベル「ラヴァーズ・ロック」を立ち上げ、デニス・ボーヴェルとジョン・カパイを主要なミュージシャンとして迎えました。

キャロン・ウィーラーが在籍した、サウスロンドンのコーラストリオ、ブラウン・シュガーは、「I'm In Love With a Dreadlocks」や「Black Pride」といった楽曲を通じて、「コンシャス・ラヴァーズ」というサブジャンルを開拓しました。ラヴァーズ・ロックは、チキン・ハイファイ、サクセス・サウンド、ソファーノBなど、ロンドンのサウンド・システムにおいて頻繁に選曲され、人気を博しました。その他のラヴァーズ・ロック・シンガーとしては、ジュニア・マーヴィン、ハニー・ボーイ、JCロッジなどが挙げられます。

1979年には、デニス・ボーヴェルがプロデュースしたジャネット・ケイの「愛の玉手箱 (Silly Games)」が全英シングルチャートで最高2位を記録する大ヒットとなり、ラヴァーズ・ロックは更なる注目を集めました。ジャネット・ケイはその後も、「ラヴィン・ユー」「イマジン」などのカバー曲を発表し、人気を博しました。また、マッド・プロフェッサーも1981年にアリワ・レーベルを設立し、デボラ・グラスゴーなどのラヴァーズ・ロック作品をプロデュースしました。

イギリスで誕生したラヴァーズ・ロックのスタイルは、やがてジャマイカにも逆輸入される形で波及し、グレゴリー・アイザックス、デニス・ブラウン、シュガー・マイノット、フレディ・マクレガーなど、多くのジャマイカ人歌手もこのスタイルを取り入れました。デニス・ブラウンの「Money In My Pocket」は1979年に全英シングルチャートで最高14位を、シュガー・マイノットの「グッド・シング・ゴーイング」は1981年に最高4位を獲得するヒットとなりました。ラヴァーズ・ロックの代表的なシンガーであるマキシ・プリーストは、全米チャートでも「ワイルド・ワールド」(1988年) や「クロース・トゥ・ユー」(1990年)などのヒットを記録しました。

1980年代には、コフィ、サンチェス、ココT、ベレス・ハモンドなどの歌手がヒットを連発しました。また、「ファッション」や「レヴュー」といったレーベルが数多くのラヴァーズ・ロック作品を発表しました。中でも、レヴューから1986年に発表されたボリス・ガーディナーの「I Wanna Wake Up With You」は、特大のヒットとなりました。1990年代には、マイク・アンソニー、ピーター・ハンニゲイル、ドナ・マリーなどがこのジャンルを代表するアーティストとして活躍しました。

ラヴァーズ・ロックは、その甘いメロディーとロマンチックな歌詞で、世界中の音楽ファンを魅了し続けています。

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