ラヴィ・シャンカル

ラヴィ・シャンカル：インド音楽の巨匠とその波乱に満ちた生涯

ラヴィ・シャンカルは、20世紀を代表するインドのシタール奏者として世界的に知られています。1920年、インドのヴァーラーナシーに生まれ、幼少期から兄と共に舞踊団の一員として欧米各地を巡業しました。15歳の時、舞踊団で出会ったババ・アラウディン・カーンにシタールの指導を受け、舞踊団解散後、7年半に渡り厳しい修行を積みます。この経験は、後に彼の音楽家としてのキャリアを決定付けるものとなりました。

シャンカルは、師匠であるカーンから伝統的なシタール演奏を学びましたが、その卓越した才能と、ダンサー時代に培った国際的な視野は、彼をインドの枠を超えた音楽家へと導きました。修行時代、決して恵まれた環境ではなかったにも関わらず、彼はカーンの人柄と、自身の「自分を浄化したい」という強い意志によって、厳しい修業を乗り越えたと言われています。

シタール奏者としてのデビュー後、シャンカルは瞬く間に人気を博します。彼の洗練された演奏は、インド古典音楽の奥深さと、西洋音楽的な洗練さを兼ね備えており、世界中の人々を魅了しました。1950年代からは、インド政府の文化使節団のリーダーとして世界各国を巡り、演奏活動を行い、日本のラジオ東京テレビ（現在のTBS）にも出演しています。

1960年代には、ビートルズのジョージ・ハリスンを弟子として迎えました。ハリソンは、シャンカルを通じてインド音楽に深く傾倒し、その影響はビートルズの音楽にも顕著に表れています。シャンカルはモントレー・ポップ・フェスティバルやウッドストック・フェスティバルといった大規模なロック・フェスティバルにも出演し、ロックやジャズなどの欧米のミュージシャンにも大きな影響を与えました。しかし、ポップスターのように扱われることや、ロック・フェスティバル特有の乱暴な雰囲気に違和感を覚え、後にロック・フェスティバルへの出演を辞めました。

シャンカルは、音楽活動と並行して映画音楽も数多く手掛けました。サタジット・レイ監督のオプー三部作をはじめ、『まごころを君に』（1968年）、『ガンジー』（1982年）といった名作映画に、彼の美しいシタールの旋律は彩りを添えました。これらの映画音楽は、彼の幅広い音楽性を示す重要な作品となっています。

1971年には、バングラデシュ独立戦争で発生した難民問題に心を痛め、ジョージ・ハリスンと共にニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでチャリティーコンサートを開催。このコンサートは大成功を収め、その模様を収めたアルバムはグラミー賞を受賞しました。その後も、ハリスンとの共演は続き、アルバム制作や北米ツアーも行っています。

シャンカルは、インド古典音楽にとどまらず、西洋クラシック音楽の分野にも積極的に進出しました。ユーディ・メニューインやジャン＝ピエール・ランパルといった西洋の著名な音楽家との共演は、東西の音楽文化の融合を示す象徴的な出来事となりました。また、ロンドン交響楽団やロンドン・フィルハーモニー管弦楽団と共演し、自ら作曲したシタール協奏曲を発表するなど、その活動は多岐に渡りました。

シャンカルは、数々の賞を受賞し、その功績は世界的に認められました。福岡アジア文化賞大賞、高松宮殿下記念世界文化賞など、数多くの栄誉ある賞を受賞し、インド音楽の普及に大きく貢献しました。2012年、92歳で生涯を閉じましたが、その音楽は世界中の人々の心に生き続けています。彼の娘であるノラ・ジョーンズとアヌーシュカ・シャンカル、甥のアナンダ・シャンカルもシタール奏者として活躍しており、その音楽的才能は、家族を通して受け継がれています。ラヴィ・シャンカルの音楽は、今もなお、多くの人々にインスピレーションを与え続けているのです。

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