レオーン3世

レオーン3世の生涯

レオーン3世（Λέων Γʹ ὁ Ἴσαυρος, 685年頃 - 741年6月18日）は、東ローマ帝国イサウリア朝の初代皇帝として、717年から741年まで在位しました。彼の名前「レオーン」はギリシア語で「獅子」を意味します。一般に「イサウロス」という渾名で知られていますが、これは彼が小アジア南東部のイサウリア地方出身であるという誤った伝承に由来します。実際には、彼はシリアとキリキアの境界に位置するゲルマニケイア（現在のカフラマンマラシュ）の出身です。

出自と初期の経歴

レオーンの元の名前はコノンでした。青年期には、ユスティニアノス2世の植民政策によってトラキアに移住しました。彼の初期の経歴については不明な点が多く、記録によって情報が錯綜しています。9世紀の年代記作者テオファネスによれば、レオーンは失脚したユスティニアノス2世が帝位を奪還する際に協力し、その功績で取り立てられたとされています。しかし、後にユスティニアノス2世から疑念を持たれ、辺境のコーカサス地方に左遷されたと伝えられています。一方、別の記録では、南イタリアに艦隊司令官として派遣されたという記述もあります。恐らくコーカサスから帰還後、南イタリアへ派遣されたと考えられています。また、印章資料の分析からは、テマの何らかの官職に就いていた可能性も指摘されています。

皇帝即位

レオーンの経歴が明確になるのは、アナスタシオス2世によってテマ・アナトリコンの長官に任命されてからです。当時、ウマイヤ朝の軍勢が小アジアに侵攻しており、イスラム軍の司令官マスラマがアナトリコンの中心都市アモリオンに迫っていました。レオーンは計略を用いてマスラマ軍を一時的に後退させ、その後、盟友であるテマ・アルメニアコンの長官アルタヴァスドスと共にコンスタンティノープルへと進軍しました。コンスタンティノープルの対岸に位置するクリュソポリスに到着すると、コンスタンティノープル総主教ゲルマノス1世らがテオドシオス3世を退位させ、レオーンはレオーン3世として即位しました。

コンスタンティノープル包囲戦

レオーン3世が即位して間もなく、マスラマ率いるウマイヤ朝軍がコンスタンティノープルに到達し、第二次コンスタンティノープル包囲戦が開始されました。レオーン3世は金角湾の入り口を鎖で封鎖し、自ら艦隊を率いてイスラム軍の補給艦隊を撃破しました。補給が途絶えたウマイヤ朝軍は窮乏し、さらにレオーン3世の要請で南下してきたブルガリア軍の攻撃にも苦しみました。結果として、ウマイヤ朝軍は718年8月15日に撤退を余儀なくされました。この勝利以降、イスラム軍によって首都が包囲されることは、オスマン帝国時代までありませんでした。

内政と領土防衛

即位後、レオーン3世はテマ・シチリアでの反乱や、アナスタシオス2世の陰謀に対処しながら、徐々に政権を安定させていきました。彼はアルタヴァスドスをテマ・オプシキオンの長官に任命し、小アジアにおけるテマの支配体制を確立しました。かつてはレオーン3世の時代にテマ・アナトリコンからテマ・トラケシオンが分割されたと考えられていましたが、現在ではこの説は否定されています。彼は陸のテマには手を加えませんでしたが、帝国艦隊の分割は行い、小アジア南部にテマ・キビュライオタイを設置しました。

帝国の体制が整い、ウマイヤ朝が衰退していく中で、730年代以降、ウマイヤ朝の小アジア侵攻は勢いを失いました。740年にはアクロイノンの戦いでウマイヤ朝軍を決定的に破り、小アジアへの侵攻は激減しました。一方、イタリア方面ではシチリア島で艦隊を強化し、チュニスからのイスラム艦隊に対抗しましたが、イタリアでの重税が原因で、北中部での統治力は揺らぎ、ラヴェンナがランゴバルド王国のリュートプランド王によって一時的に制圧されることもありました。

法と宗教政策

内政面では、レオーン3世は『ローマ法大全』の要約・改訂版である『エクロゲー』と呼ばれる法律集を741年（または726年）に発行しました。また、彼はイコン崇敬を異端とみなし、726年にイコン崇敬の禁止令を出して聖像破壊運動を開始し、厳しい弾圧を行いました。

聖像破壊運動の影響

730年には、総主教ゲルマノス1世が罷免されました。聖像破壊運動に反対した人々は拷問を受け、ダマスコのイオアンや克肖者表信者ヴァシリオスは正教会の聖人として列聖されました。この聖像破壊運動は、東ローマ皇帝とローマ教皇の対立を深め、東西教会の分裂を招く要因となりました。787年の第2ニカイア公会議で聖像擁護が認められましたが、教義上の対立はフィリオクェ問題をきっかけに再び顕在化することとなりました。

レオーン3世の治世は、東ローマ帝国にとって重要な転換期であり、彼の政策は帝国社会に大きな影響を与えました。

もう一度検索