ラヴジョイ彗星 (C/2011 W3)

ラヴジョイ彗星 (Comet Lovejoy)

ラヴジョイ彗星は、クロイツ群と呼ばれる一群に属する特異な彗星です。その正式名称はC/2011 W3。この彗星が特に注目を集めたのは、太陽表面からわずか13万キロメートルという極めて近い距離を通過したにもかかわらず、蒸発したり衝突したりすることなく、驚くべき生還を遂げたためです。その後、南半球のクリスマスシーズンにかけて観測され、その明るく雄大な姿から「2011年クリスマスの大彗星（The Great Christmas Comet of 2011）」とも称されました。

軌道の特性

ラヴジョイ彗星は、軌道長半径が約118億km（78.9AU）、公転周期は約698年という、非常に長い周期を持つ長周期彗星に分類されます。また、近日点距離が約83万km（0.00555AU）と極端に短く、太陽に非常に接近する「サングレーザー」であり、特にクロイツ群に属しています。

その近日点距離は、太陽半径（約69万6000km）のわずか約1.2倍に過ぎず、太陽の表面からわずか13万2000kmの距離まで迫ります。これは地球と月の間の距離の約3分の1に相当する近さです。

通常、これほど太陽に接近する天体は、百万度を超えるコロナの熱で蒸発するか、太陽に衝突するか、あるいは強大な潮汐力によって粉々に引き裂かれる運命にあります。実際、クロイツ群の彗星は、かつて一つの巨大な彗星が分裂してできたと考えられています。そのため、ラヴジョイ彗星もその小ぶりなサイズから、太陽接近によって消滅すると広く予想されていました。

しかし驚くべきことに、予測を覆して近日点通過を生き延び、この種の天体としては初めて太陽への超接近からの生還が観測された事例となったのです。この出来事は専門家の間でも大きな驚きをもって迎えられ、NASAの専門家カール・バタムズ氏はその驚きを「文字通り度肝を抜かれた（It's absolutely astounding）」と表現しました。生存が確認された彗星としては、ラヴジョイ彗星の近日点距離は過去3番目に近い記録です。

ラヴジョイ彗星の軌道は、離心率が0.999929と極めて1に近く、軌道傾斜角は約134度という大きく傾いた逆行軌道を持っています。このような軌道の性質から、惑星からの摂動を受けにくく、今後も長周期彗星として再び太陽系内部に戻ってくると考えられています。もし観測された軌道要素通りであれば、次回の近日点通過は西暦2706年から2713年頃になると予測されています。

近日点通過後の観測

近日点通過の際、ラヴジョイ彗星は太陽の裏側に位置したため、地球から直接観測することはできませんでした。しかし、約50分後に太陽の向こう側から再び姿を現した際、太陽観測衛星群――SOHO、ひので、SDO、STEREO-A/B、Proba-2など、合計18もの観測機器が、この奇跡的な生還を捉えることに成功しました。

この時の視等級はマイナス1.2等からマイナス0.8等と推定され、また、太陽を挟んで両側に尾が伸びている様子も観測されました。

近日点通過から約1ヶ月後、2012年1月7日には地球に最接近し、約7470万km（0.4990AU）の距離を通過しました。

物理的性質

近日点通過前、ラヴジョイ彗星の核の大きさは100～200メートルと推定されていました。これはクロイツ群の彗星としては比較的大きい部類に入ります。しかし、太陽への超接近を生き延びたという事実から、核の実際のサイズはより大きい、約500メートルであったと再推定されました。太陽に極限まで近づいたことで、核の質量の大部分は蒸発してしまったと考えられますが、近日点通過後もイオンの尾が伸び続け、太陽の磁力線と相互作用している様子が観測されています。これは、尾を形成する物質がまだ完全に枯渇していないことを示唆しています。

また、強大な潮汐力による核の分裂は観測されませんでした。しかし、近日点通過後に核の形状が明らかに棒状に変化していることが観測されています。

明るさと観測

ラヴジョイ彗星は主に南半球で観測され、その明るさは最大でマイナス3等からマイナス4等級に達しました。これは2007年のマックノート彗星（最大マイナス5.5等）以来の明るさであり、一時は池谷・関彗星に匹敵する明るさになるという予測もありました。金星の最大等級であるマイナス4.6等級に匹敵する明るさでしたが、太陽に非常に近い位置にあったため、実際にはそこまで明るく見える時間は限られていました。しかし、最大等級となる前でも、ラヴジョイ彗星は肉眼ではっきりと捉えられるほど明るくなりました。また、SOHO衛星が観測した彗星の中では、最大級の明るさを持つ天体の一つでもあります。

近日点通過前の2011年12月12日から13日にかけて撮影された映像では、ラヴジョイ彗星に伴う小さな彗星が発見されています。これは数十年前、あるいはそれより前にラヴジョイ彗星から分裂した微小な破片である可能性が考えられています。また、この時撮影された画像には、彗星の尾が分断されて見える様子も記録されています。

発見

ラヴジョイ彗星は、2011年12月2日にオーストラリアのアマチュア天文家テリー・ラヴジョイ氏によって発見されました。彼は自身のシュミットカセグレン式望遠鏡とQHY9 CCDカメラを用いてこの発見を成し遂げました。最初の観測は11月27日に行われています。特筆すべきは、これが1970年以来のクロイツ群彗星の観測史において、初めて地上観測によって発見された事例であることです。発見当時、彗星は13等級の明るさで、極めて速い見かけの動きを示していました。

テリー・ラヴジョイ氏によって発見された彗星としては、これが3番目の発見となりました。

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