ラヴ・ユー・ライヴ

ローリング・ストーンズのライブアルバム『ラヴ・ユー・ライヴ』：伝説のツアーと秘話の数々

1977年、ローリング・ストーンズによってリリースされたライブアルバム『ラヴ・ユー・ライヴ』（旧邦題：感激! 偉大なるライヴ）は、バンドの歴史において重要な位置を占める作品です。本作は、1975年の北米ツアー、1976年のヨーロッパツアー、そして1977年のカナダ公演の音源を収録した、彼らの公式ライブアルバム3作目（アメリカで先行リリースされた『ガット・ライヴ・イフ・ユー・ウォント・イット!』を含めると3作目）にあたります。

このアルバムの最大の特徴は、多様なライブパフォーマンスが収められている点です。大規模なスタジアム公演はもちろんのこと、カナダ、トロントのエル・モカンボ・クラブという、わずか500人収容の小さなクラブでのライブ音源も収録されています。このクラブ公演は、ラジオ番組の当選者だけが参加できる特別なイベントだったため、非常にレアで貴重な記録となっています。

アルバム制作の裏側には、数々のドラマチックな出来事が潜んでいます。まず、カナダ公演直前の1977年2月27日、キース・リチャードがヘロイン不法所持でカナダ騎馬警察隊に逮捕されるという事件が発生。1000ドルの保釈金を支払い釈放されましたが、この出来事がアルバム制作に影を落としたかどうかは定かではありません。さらに、カナダ首相ピエール・トルドーの夫人、マーガレット・トルドーが公演に訪れ、メンバーとプライベートパーティーに参加したというエピソードも有名です。しかし、このパーティーの様子がゴシップ誌に取り上げられ、ロン・ウッドやミック・ジャガーとの関係が憶測を呼びました。

アルバムのレコーディングとミックス作業は、1977年5月から6月にかけて行われ、ビリー・プレストンとイアン・スチュアートのピアノ演奏が追加されました。アートワークは、世界的ポップアーティストであるアンディ・ウォーホルが担当し、アルバムの高い芸術性をさらに高めています。

『ラヴ・ユー・ライヴ』は、商業的にも大きな成功を収めました。イギリスで3位、アメリカで5位にランクインし、ゴールドアルバムに輝きました。しかし、このアルバムは、ローリング・ストーンズとワーナー・ミュージックのグローバルな契約が終了した最後のアルバムという側面も持っています。その後、ローリング・ストーンズは北米ではワーナーとの契約を継続する一方、その他の地域ではEMIと新たな配給契約を結びました。

さらに、このアルバムはキース・リチャードが「リチャード」名義でクレジットされた最後のアルバムでもあります。翌1978年のアルバム『女たち』からは、彼のクレジット名は「リチャーズ」に戻っています。細かい点ですが、収録楽曲の表記にも変更があり、「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」のアポストロフィーが「g」に変更されていたり（後に再発盤では修正）、"It's Only Rock 'n' Roll (But I Like It)" が "It's Only Rock'n' Roll" と短縮されたりしています。

その後、1998年にはヴァージン・レコードから、2009年にはユニバーサル ミュージック グループからリマスター盤が発売され、現在でも多くのファンに愛聴されています。これらのリマスター盤では、音質の向上はもちろんのこと、タイトル表記の誤りなども修正されているようです。

収録曲は、代表曲からレアな楽曲まで、ストーンズの幅広い魅力が詰まった選曲となっています。特に、エル・モカンボ・クラブでのライブ音源は、彼らの初期のエネルギーと、親密な雰囲気の中で繰り広げられるパフォーマンスを体感できる貴重な資料です。

『ラヴ・ユー・ライヴ』は、単なるライブアルバムとしてだけでなく、ローリング・ストーンズの70年代の活動、そしてその周囲を取り巻く様々な出来事を凝縮した歴史的ドキュメントとしての価値も高いと言えるでしょう。アルバムに収録された楽曲、そしてその背景にあるストーリーを知ることで、彼らの音楽に対する理解がさらに深まることでしょう。

もう一度検索