ラーマーヌジャ

ラーマーヌジャ：ヒンドゥー教哲学の革命家

ラーマーヌジャ（1017年 - 1137年）は、南インドを代表する哲学者であり、神学者です。12世紀の南インド、マドゥライ近郊のシュリーランガム寺院で司教を務めた彼は、ヒンドゥー教哲学、特にヴェーダーンタ哲学に革命的な変化をもたらしました。

ラーマーヌジャは、当初、シャンカラのアドヴァイタ・ヴェーダーンタ（不二一元論）を学んでいましたが、その教えに満足できませんでした。そこで、彼は独自の哲学体系であるヴィシシュタードヴァイタ・ヴェーダーンタ（修正不二一元論）を確立します。この哲学は、シャンカラの主張と大きく異なる点がいくつかあります。

まず、アドヴァイタ・ヴェーダーンタが現象世界を幻影とみなすのに対し、ヴィシシュタードヴァイタ・ヴェーダーンタでは、現象世界は実在であると主張します。また、神を不人格な絶対者と捉えるアドヴァイタ・ヴェーダーンタとは異なり、ラーマーヌジャは神を人格神として捉えます。さらに、解脱の達成方法についても、アドヴァイタ・ヴェーダーンタの知識による解脱ではなく、バクティ（信愛）による解脱を説いています。

シャンカラの哲学が主にバラモン階級を対象としたのに対し、ラーマーヌジャの哲学は、当時盛んだったバクティ運動を取り込み、庶民にも広く受け入れられるものとなりました。ラーマーヌジャといえば熱狂的なバクティが想起されますが、松本照敬の研究によれば、彼の思想は、実際にはかなり知的なものであったとされています。

ラーマーヌジャの教えは、後世において「猫派」と「猿派」という二つの流れに分岐しました。この比喩は、危険に遭遇した際に、親猫が子猫をくわえて移動させるか、小猿が親猿にしがみついて移動させるかの違いを表しています。これは、神に全てを委ねるのか、それとも自己の努力も必要とするのかという、異なるアプローチを示しています。

ラーマーヌジャは多くの著作を残していますが、『シュリーバーシャ』が代表作として知られています。彼の思想は、ラーマーナンダ、カビール、グル・ナーナクといった後世の宗教指導者にも大きな影響を与えました。

ラーマーヌジャの生涯については、120歳まで生きたという記述も見られますが、これはインドにおける長寿に関する伝承的な話であり、史実として確認されているわけではありません。

ラーマーヌジャの哲学は、ヒンドゥー教思想に新たな視点と深みをもたらし、現代においても世界中の研究者によって研究され、高い評価を受けています。彼の思想は、宗教哲学のみならず、倫理や社会思想にも大きな影響を与え続けています。バクティ運動の隆盛に大きく貢献した彼の功績は、今もなお人々の心を捉え続けています。彼の著作は、現代の読者にとっても、神と人間、そして世界との関係性を考える上で貴重な示唆を与えてくれます。

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