リカルド・ビニェス

リカルド・ビニェス（Ricardo Viñes, 1875年2月5日 - 1943年4月29日）は、スペインに生まれ、主にフランスで活躍した傑出したピアニスト、そして作曲家です。彼は、クロード・ドビュッシーやモーリス・ラヴェルといった近代フランスを代表する作曲家たちの重要なピアノ作品の数々を最初に演奏したことで、その名を音楽史に刻んでいます。また、フランシス・プーランクがピアノを学んだ師の一人としても知られています。

カタルーニャ地方のリェイダに生まれたビニェスは、才能を認められパリ音楽院で音楽を学びました。ピアノをシャルル・ド・ベリオに師事し、作曲と和声法をバンジャマン・ゴダールとアルベール・ラヴィニャックから学びました。彼の学習と成長は、その後のピアニストとしての活動に大きな礎を築きました。

ビニェスとラヴェルの関係は特に密接でした。彼はラヴェルに多くの書籍を紹介し、芸術家たちの集まりである「アパッシュ」にも共に参加するなど、ラヴェルの思想や創作に影響を与えたと言われています。ピアニストとして、ビニェスはラヴェルの革新的なピアノ作品を次々と初演しました。例えば、1898年の《古風なメヌエット》を皮切りに、1901年には《グロテスクなセレナード》、1902年にはピアノ曲の金字塔ともいえる《水の戯れ》や《亡き王女のためのパヴァーヌ》、1906年には組曲《鏡》、そして1909年には超絶技巧で知られる《夜のガスパール》といった、今なお多くの人々に愛される作品群を、ビニェスが最初に聴衆に届けました。ラヴェルは《古風なメヌエット》と《鏡》の中の第2曲「悲しい鳥たち」をビニェスに献呈しています。しかし、献呈という形で友情を示しつつも、ラヴェル自身は、ピアニスティックな演奏を意図しない作品（ラヴェルはあえて「ピアニスティックではない」作品を献呈して楽しんでいたとされます）に対するビニェスの演奏解釈には、必ずしも満足していなかったとも伝えられています。

ビニェスとラヴェルの個人的な関係については、彼らが共に独身であったことや、ビニェスの繊細な人柄から、友情以上の関係であった可能性が囁かれることもあります。しかし、ビニェスが残した日記をひも解いても、こうした憶測を明確に裏付ける記述も、あるいは否定する証拠も見出されていません。

ドビュッシー作品においても、ビニェスは重要な初演を担いました。1902年の《ピアノのために》、1904年の《版画》、1905年の《仮面》と《喜びの島》、1906年の《映像》第1集、そして1908年の同第2集など、ドビュッシーの代表的なピアノ作品の多くが彼の演奏によって世に送り出されました。これらソロ作品に加え、彼はドビュッシーのピアノ伴奏歌曲の初演も手がけています。

ドビュッシーやラヴェル以外にも、ビニェスはイサーク・アルベニス、エリック・サティ、マヌエル・デ・ファリャ、デジレ＝エミール・セヴラックといった同時代の作曲家たちの作品初演も行い、彼らの音楽の普及にも貢献しました。

ピアニストとしての活動の傍ら、ビニェスは作曲も行っています。彼の作品には、セヴラックとサティに捧げられたピアノのための《2つのオマージュ》や、ラヴェル、ガブリエル・フォーレ、サティ、そして詩人のレオン＝ポール・ファルグに捧げられた《4つのオマージュ》など、小品が中心です。また、彼はスペイン音楽に関する見識も深く、スペイン語とフランス語の両方で評論や論文を執筆し、その普及に努めました。

リカルド・ビニェスは、1943年4月29日に故郷であるスペインのバルセロナでその生涯を閉じました。彼は、20世紀初頭のフランス楽壇において、特にピアノ音楽の革新と発展において、稀有な役割を果たした重要な演奏家であり、その遺した足跡は今日まで多大な影響を与えています。

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