リシュリュー (戦艦)

フランス戦艦「リシュリュー」：激動の生涯

「リシュリュー」は、フランス海軍が建造したリシュリュー級戦艦の1番艦であり、同型艦の中で第二次世界大戦中に完成し、就役を果たした唯一の艦です。その艦名は、17世紀フランスを代表する政治家、リシュリュー枢機卿に由来しています。本稿では、リシュリューの建造から解体に至るまでの艦歴を詳細にたどり、その激動の生涯を明らかにします。

建造と第二次世界大戦勃発

リシュリューの建造は、1935年10月22日、ブレスト海軍工廠で開始されました。しかし、巨大な艦体はドックを大きく超えるサイズであったため、艦首と艦尾の一部は後から追加で建造されるという特殊な工程を踏むこととなりました。さらに、イギリスの軍備拡張への懸念やフランス国内での労働争議なども影響し、建造は当初の予定よりも遅延。リシュリューは1939年1月17日にようやく進水しました。

第二次世界大戦の勃発は、建造をさらに急がせることになります。しかしながら、1940年5月、ドイツ軍がフランスに侵攻を開始した時点においても、リシュリューは未だ竣工していませんでした。6月4日、ダンケルク陥落。ドイツ軍の侵攻が迫る中、リシュリューはダカールへの移動を命じられます。当初はイギリスへの脱出が計画されていましたが、最終的にはドイツとの交渉材料として活用する目的から、目的地が変更されました。

6月19日、リシュリューはブレストを出航。途中で護衛艦を交代しながら航行を続け、6月23日にダカールに到着しました。しかし、この時点で搭載していた主砲の発射薬はわずか50発分程度しかなく、航海中には主機の故障も発生するなど、航海の状況は決して楽観視できるものではありませんでした。

ダカール到着後も、リシュリューは幾度も移動を命じられ、カサブランカへの移動命令や、金塊輸送船団との合流命令などを受けますが、最終的にはダカールに留まることになります。

ダカール沖海戦

フランスとドイツの休戦後、イギリスは北アフリカにおけるフランス艦隊への攻撃を開始。ダカールも例外ではなく、イギリス軍の攻撃目標となりました。リシュリューは、ゴレ島西方に停泊し、貨物船などを配置することで雷撃機からの攻撃への防御を図っていました。

7月7日、イギリス軍は最後通牒を突きつけ、降伏を要求。7月8日未明、イギリス空母ハーミーズから発進した雷撃機による攻撃を受け、魚雷1本が右舷後方に命中。水深の浅さにより、海底で反射した衝撃で被害は拡大し、右舷側の推進軸に損傷が発生、浸水も止まらず、戦闘能力は著しく低下しました。この攻撃により、リシュリューは実質的に左舷側の推進軸2軸のみしか使用できなくなりました。

8月下旬からは、シャルル・ド・ゴール率いる自由フランス軍とイギリス軍によるダカール攻略作戦（メナス作戦）が始動。9月23日、作戦部隊はダカール沖に姿を現しました。ダカール側は強硬な姿勢を崩さず、自由フランス軍の上陸は失敗に終わり、イギリス艦隊とダカール側の間で戦闘が勃発します。

戦闘では、リシュリューはイギリス戦艦と砲撃戦を展開し、副砲がイギリス戦艦バーラムに命中弾を与える一方、自身もイギリス戦艦からの攻撃を受け、食堂などが破壊され、装甲帯もゆがむ被害を受けました。戦闘中、リシュリューの2番主砲塔では腔発事故が発生。熱帯気候下における砲弾爆発圧力の増大が原因と推測されています。

連合国軍加入と太平洋での戦い

1942年11月、アフリカのフランス陸海軍は連合国軍に参加。損傷したリシュリューは、修理と改修のため、1943年1月30日にダカールを出航、ニューヨーク海軍工廠に向かいます。改修は10月10日に完了。アメリカ製の対空兵器の装備などが行われました。

1943年11月から1944年3月までイギリス本国艦隊に所属。ノルウェー沖でのドイツ船舶攻撃作戦などに参加。その後、イギリス海軍東洋艦隊に配属され、インド洋方面へと移動。1944年4月から1945年5月にかけて、様々な作戦に参加し、日本軍の基地への砲撃などを実施しました。この間、磁気機雷に接触するなど様々な危険もありましたが、大きな被害を受けることなく任務を遂行しました。

戦後と解体

終戦後もリシュリューはインドシナ戦争で活躍し、兵員輸送や沿岸砲撃に従事。1946年2月11日にフランスへ帰還。その後、大統領の海外訪問などに使用された後、1958年に予備役となり、1968年9月、解体されました。現在、ブレスト港にはリシュリューの主砲1門が展示されています。

参考文献

Jordan, John; Dumas, Robert (January 2010). French Battleships, 1922–1956. Seaforth Publishing. ISBN 978-1-84832-034-5
宮永忠将『フランス戦艦入門』潮書房光人新社、2023年、ISBN 978-4-7698-3333-8
「世界の艦船増刊第22集 近代戦艦史」(海人社)
「世界の艦船増刊第38集 フランス戦艦史」(海人社)
「世界の艦船増刊第38集 第2次大戦時のイギリス戦艦」(海人社)
「世界の艦船増刊第22集 近代戦艦史 2008年10月号(海人社)
* 「世界の艦船 列強最後の戦艦を比較する 2006年2月号」(海人社)

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