リス民族発展党
ミャンマー連邦共和国において、主にリス族の政治的権益を代表する組織として活動しているのがリス民族発展党（Lisu National Development Party、略称: LNDP）です。リス語やビルマ語では、その特徴から「クロスボウ党」という通称でも知られています。リス族の文化や社会の発展を目指し、ミャンマーの政治プロセスに参加しています。
LNDPは、ミャンマーの国政選挙にも参加し、成果を上げてきました。2015年の総選挙では、中央議会である人民代表院において2つの議席を獲得しました。加えて、カチン州議会でも2議席を得ており、さらにシャン州議会ではリス族を代表する民族大臣のポストを獲得しています。2020年の総選挙では、カチン州議会およびシャン州議会で民族大臣のポストを再び確保したほか、カチン州のコンランプー選挙区からも議席を得るなど、少数民族政党として一定の存在感を示しました。
この党は、2016年以降、当時の与党であり軍と近いとされる連邦団結発展党との協力関係を強化してきました。特に、当時の党首を務めていたウー・シュエミン氏は、少数民族武装勢力であるカチン独立軍（KIA）によるリス族市民の殺害とされる事件に対し、強い反発を示しました。彼はこの問題を巡り、3度にわたりKIAに反対するデモを組織しました。2019年にカチン州都ミッチーナーで開かれた反KIAデモでは、「KIAを殲滅せよ」とミャンマー軍に促す横断幕が掲げられるなど、その対決姿勢を明確にしました。
また、リス族の自治拡大もLNDPの重要な要求事項でした。2016年に開催された連邦和平会議「21世紀パンロン」の場において、ウー・シュエミン議長は、コンランプー、ソロー、チプウェ、マチャンボー、プーターオの5つの郡区を包含するリス自治区の設置を政府に求めました。しかし、この要求は、当該地域に居住する他民族、特にロンウォー、ラチッ、ンゴーチャンといったカチン系の諸民族からの強い抵抗を招きました。チプウェ郡区では、ロンウォー文学文化協会などが主導し、約500人の抗議者が自治区設置要求の撤回を求めてデモ行進を行うなど、民族間の緊張を高める結果となりました。
2021年にミャンマーで軍事クーデターが発生し、国軍が政権を掌握して以降、LNDPは軍事評議会との連携を深める道を選びました。この方針は、多くのリス族コミュニティからの激しい反発を招き、「LNDPはリス族全体の意思を代表していない」という批判が高まりました。党内部にも波紋が広がり、モーゴッ地区の副党首が離党するなど、党勢の動揺が見られました。国外のリス族団体もこの状況に反応し、アメリカのリス協会は、軍政やそれを支持するリス族指導者たちはリス民族の正当な代表者ではないとする声明を発表し、軍政支持への姿勢を非難しました。
こうした国内外からの反発や批判がある中で、LNDPは2024年、軍事政権が計画する総選挙に向けて政党としての登録手続きを進め、当局からの承認を得ています。
LNDPと関連が深い武装組織に、リス民兵があります。この民兵組織もまた、LNDPの指導者であったウー・シュエミン氏によって主導されました。ウー・シュエミン氏は、かつて少数民族武装勢力であるカチン新民主軍（NDA-K）で大隊長を務めていましたが、2007年の政変を機に、約30丁の武器を持ってミャンマー国軍側へと寝返った過去を持ちます。その後、2016年にミャンマー国軍との協力関係の下でリス民兵を組織しました。
リス民兵は、結成直後の2016年11月には、カチン州内のンマイカ川下流に位置するローコン渓谷において、地域の支配権や境界線を巡ってザクン・ティンインと呼ばれる別の民兵組織との間で武装衝突を起こしています。この民兵組織には、ミャンマー国内だけでなく、国境を越えて中国側に居住するリス族の人々も参加していると伝えられています。
2021年のクーデター以降、リス民兵は活動範囲を広げ、同年11月にはタナイ郡区に拠点を構築しました。そこで、反軍政の立場を取るカチン独立軍（KIA）および国民防衛隊（PDF）と敵対し、戦闘を展開しました。
リス民兵はその人員確保のために、年齢を問わずリス族の男性を強制的に兵士として徴募したという報告があります。この強制徴募に対しては、アメリカ合衆国やオーストラリアに拠点を置くリス族協会が強く非難する声明を発表し、国際社会からも懸念が示されました。
リス民族発展党の議長であり、リス民兵の指導者でもあったウー・シュエミン氏は、2024年3月7日、カチン独立軍と国民防衛隊の合同部隊によって仕掛けられた待ち伏せ攻撃により命を落としました。
リス民族発展党とリス民兵は、いずれもリス族の権益保護や拡大を目指す動きの中で生まれた組織ですが、特にウー・シュエミンという人物を中心に、政治交渉と武装活動という二つの側面で展開されてきました。これらの組織の動向は、ミャンマーにおける少数民族の権利問題、中央政府や他の民族グループとの関係、そして軍事政権下での立ち位置といった、複雑な課題を浮き彫りにしています。特に、クーデター以降の軍政への接近は、リス族社会内部に新たな分断をもたらす一因となっています。これらの組織の歴史と活動は、ミャンマーのリス族社会が置かれている状況と、彼らがその中でどのように対応しているかを示す重要な事例と言えるでしょう。
LNDPは、ミャンマーの国政選挙にも参加し、成果を上げてきました。2015年の総選挙では、中央議会である人民代表院において2つの議席を獲得しました。加えて、カチン州議会でも2議席を得ており、さらにシャン州議会ではリス族を代表する民族大臣のポストを獲得しています。2020年の総選挙では、カチン州議会およびシャン州議会で民族大臣のポストを再び確保したほか、カチン州のコンランプー選挙区からも議席を得るなど、少数民族政党として一定の存在感を示しました。
この党は、2016年以降、当時の与党であり軍と近いとされる連邦団結発展党との協力関係を強化してきました。特に、当時の党首を務めていたウー・シュエミン氏は、少数民族武装勢力であるカチン独立軍（KIA）によるリス族市民の殺害とされる事件に対し、強い反発を示しました。彼はこの問題を巡り、3度にわたりKIAに反対するデモを組織しました。2019年にカチン州都ミッチーナーで開かれた反KIAデモでは、「KIAを殲滅せよ」とミャンマー軍に促す横断幕が掲げられるなど、その対決姿勢を明確にしました。
また、リス族の自治拡大もLNDPの重要な要求事項でした。2016年に開催された連邦和平会議「21世紀パンロン」の場において、ウー・シュエミン議長は、コンランプー、ソロー、チプウェ、マチャンボー、プーターオの5つの郡区を包含するリス自治区の設置を政府に求めました。しかし、この要求は、当該地域に居住する他民族、特にロンウォー、ラチッ、ンゴーチャンといったカチン系の諸民族からの強い抵抗を招きました。チプウェ郡区では、ロンウォー文学文化協会などが主導し、約500人の抗議者が自治区設置要求の撤回を求めてデモ行進を行うなど、民族間の緊張を高める結果となりました。
2021年にミャンマーで軍事クーデターが発生し、国軍が政権を掌握して以降、LNDPは軍事評議会との連携を深める道を選びました。この方針は、多くのリス族コミュニティからの激しい反発を招き、「LNDPはリス族全体の意思を代表していない」という批判が高まりました。党内部にも波紋が広がり、モーゴッ地区の副党首が離党するなど、党勢の動揺が見られました。国外のリス族団体もこの状況に反応し、アメリカのリス協会は、軍政やそれを支持するリス族指導者たちはリス民族の正当な代表者ではないとする声明を発表し、軍政支持への姿勢を非難しました。
こうした国内外からの反発や批判がある中で、LNDPは2024年、軍事政権が計画する総選挙に向けて政党としての登録手続きを進め、当局からの承認を得ています。
LNDPと関連が深い武装組織に、リス民兵があります。この民兵組織もまた、LNDPの指導者であったウー・シュエミン氏によって主導されました。ウー・シュエミン氏は、かつて少数民族武装勢力であるカチン新民主軍（NDA-K）で大隊長を務めていましたが、2007年の政変を機に、約30丁の武器を持ってミャンマー国軍側へと寝返った過去を持ちます。その後、2016年にミャンマー国軍との協力関係の下でリス民兵を組織しました。
リス民兵は、結成直後の2016年11月には、カチン州内のンマイカ川下流に位置するローコン渓谷において、地域の支配権や境界線を巡ってザクン・ティンインと呼ばれる別の民兵組織との間で武装衝突を起こしています。この民兵組織には、ミャンマー国内だけでなく、国境を越えて中国側に居住するリス族の人々も参加していると伝えられています。
2021年のクーデター以降、リス民兵は活動範囲を広げ、同年11月にはタナイ郡区に拠点を構築しました。そこで、反軍政の立場を取るカチン独立軍（KIA）および国民防衛隊（PDF）と敵対し、戦闘を展開しました。
リス民兵はその人員確保のために、年齢を問わずリス族の男性を強制的に兵士として徴募したという報告があります。この強制徴募に対しては、アメリカ合衆国やオーストラリアに拠点を置くリス族協会が強く非難する声明を発表し、国際社会からも懸念が示されました。
リス民族発展党の議長であり、リス民兵の指導者でもあったウー・シュエミン氏は、2024年3月7日、カチン独立軍と国民防衛隊の合同部隊によって仕掛けられた待ち伏せ攻撃により命を落としました。
リス民族発展党とリス民兵は、いずれもリス族の権益保護や拡大を目指す動きの中で生まれた組織ですが、特にウー・シュエミンという人物を中心に、政治交渉と武装活動という二つの側面で展開されてきました。これらの組織の動向は、ミャンマーにおける少数民族の権利問題、中央政府や他の民族グループとの関係、そして軍事政権下での立ち位置といった、複雑な課題を浮き彫りにしています。特に、クーデター以降の軍政への接近は、リス族社会内部に新たな分断をもたらす一因となっています。これらの組織の歴史と活動は、ミャンマーのリス族社会が置かれている状況と、彼らがその中でどのように対応しているかを示す重要な事例と言えるでしょう。
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