リチャード・ウェルズリー (初代ウェルズリー侯爵)

初代ウェルズリー侯爵リチャード・コリー・ウェルズリー

リチャード・コリー・ウェルズリー（1760年6月20日 - 1842年9月26日）は、イギリスの政治家、外交官、貴族として、激動の時代にその名を刻みました。彼は、インド総督、外務大臣、アイルランド総督といった要職を歴任し、特にインド総督としては、イギリス東インド会社の勢力拡大に大きく貢献しました。弟には、ナポレオン戦争の英雄として知られる初代ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーがいます。

生い立ちと初期のキャリア

1760年、アイルランド貴族の家に生まれたリチャードは、ハーロー校、イートン・カレッジ、オックスフォード大学クライスト・チャーチで学びました。当初はリチャード・ウェズリーという名前でしたが、後にウェルズリーに改姓しました。1780年にはアイルランド議会の庶民院議員となり、政界への第一歩を踏み出します。

1781年に父の死によりモーニントン伯爵位を継承し、アイルランド貴族院議員に転じました。1784年にはグレートブリテン議会の庶民院議員にも選出され、小ピット内閣の大蔵卿の一人に任命されました。1793年からはインド庁の委員として、インド統治に関与するようになります。

インド総督としての功績

1798年、リチャード・ウェルズリーはインド総督に就任します。当時、イギリスはフランスと戦争状態にあり、南インドのマイソール王国はフランスと同盟してイギリスの脅威となっていました。また、北インドではアフガニスタンの侵入も頻発していました。ウェルズリーは、前任者たちの不干渉主義が事態を悪化させたと判断し、イギリスの覇権拡大を目指しました。

彼は、ニザーム藩王国との同盟軍を率いてマイソール王国を攻撃し、1799年の第四次マイソール戦争でティプー・スルターンを打ち破りました。マイソール王国の一部をイギリス領に編入し、残りの地域にはイギリスの保護下にある藩王国を樹立しました。この勝利により、ウェルズリーは本国での威信を高め、ウェルズリー侯爵に叙せられました。

ウェルズリーは、軍事作戦と並行して、藩王国との軍事保護条約締結を進めました。これにより、イギリスは藩王国に駐留軍を配置し、その経費を負担させることが可能となり、財政力を超えた軍事力を維持することができました。このシステムは、イギリスのインド支配を確立する上で非常に重要な役割を果たしました。

1803年から1805年にかけて、ウェルズリーはマラーター同盟との間で第二次マラーター戦争を起こし、インド中央部まで勢力を拡大しました。しかし、一部の戦闘での敗北により、本国政府からの信頼を失い、1805年に召還されました。

しかし、ウェルズリーの治世下で、イギリス東インド会社の支配領域は2倍に拡大し、イギリスはインドにおける覇権を確立しました。彼の政策は、その後のイギリスによるインド支配の基礎を築いたと言えるでしょう。

帰国後の活動と晩年

帰国後、ウェルズリーは政界に復帰し、スペイン駐箚イギリス特命全権大使や外務大臣を歴任しました。また、アイルランド総督にも二度任命され、カトリック解放運動の解決に尽力しました。1842年、ウェルズリーは後継者を残すことなく亡くなり、ウェルズリー侯爵位は廃絶しました。

リチャード・コリー・ウェルズリーは、その強引な手法から批判も浴びましたが、イギリスのインド支配を確立し、大英帝国の礎を築いた功績は否定できません。彼の生涯は、野心と戦略、そして時代のうねりの中で繰り広げられた、一人の政治家の物語として、今もなお語り継がれています。

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